第17章 芸術と嘘吐き
実弥の制止させようとする手も虚しく、地面に腰を落ち着かされ羽織を脱がされ隊服もはだけさせられ……
怪我をしていたり雷で火傷を負わされたところに薬を塗りこまれ、包帯が物凄い勢いで綺麗に巻かれていく。
(にしても相変わらず手当てすんの早ェなァ。胡蝶んとこいれば重宝され……そう……?何だァ?)
手当ては完了した。
怪我は全て包帯で覆われたのに風音は実弥の体をくまなく確認している。
風音の意図が分からず頬を軽く摘むと、キョトンとした表情が返ってきた。
「いやいや……んな顔されてもなァ。何やってんだ?もう怪我ねェだろ、アイツらんとこ行かねェのかァ?」
「痣……出てるでしょ?お薬は飲んでもらったけど心配だったから。痛くない?苦しくない?」
瞬く間に眉が下がり瞳が揺れる。
それを言うならお前はどうなのだ。
と第一声に聞き返そうかとも思ったが、憂いがあるならば払うが先だと頭をポンと撫でる。
「痛くもねェし苦しくもねェよ。これについてはお前に聞くことあっからちゃんと後で答えてくれ。ほら、アイツらんとこ行くぞ」
まるでどこも痛くないと示すように片腕でひょいと抱え上げてやると、実弥の言葉や行動に安心した風音の顔に笑顔が戻った。
「現金なヤツ。てかお前、肩以外にも怪我してたろ?聞くまでもねェかもしんねぇが、火傷とか自分で切った傷はどうなってんだ?」
大人しく運ばれている風音の体がピクリと跳ね上がった……
つまりどこかの傷は塞がっていないのだろう。
いつまでも人の怪我にばかり気を取られ自分の怪我の存在を忘れる少女に溜め息をつき、逃げ場のない実弥の腕の中でそっぽを向く風音の脇腹に指をくい込ませた。
「うひゃっ!うぅ、そこは反則だよ。……前々から思ってたんだけど、鬼に付けられた傷だけ治りが異常に早いみたい。でも自分で切り裂いたものは通常の速度なんだよね。だから右腕の傷だけ生傷のまま……痛くない痛くない。いつもの事だから慣れっ子慣れっ子」
「慣れられてたまるかァ……深くねェならそこで薬塗って包帯巻いとけ。……拒否したらどうなるか」
ピンと伸ばした指を風音の目の前に翳すと、脇腹を死守するため慌てて鞄の中に手を突っ込んだ。