第17章 芸術と嘘吐き
この状況で風音が言いよどみ緊張することなど一つしかない。
紡がれる言葉が何か見当をつけながらも、確証を得るために先の言葉を実弥は促す。
「前にも言ったが、お前の言葉一つで怒鳴ったり嫌ったりしねェから言ってみろ。何がしてェんだ?」
「うん。あの……実弥君の怪我の手当てしたら玄弥さんたちの様子を見に行こう?きっと……怪我してるはずだから。あと……ありがとうって伝えたい。上弦の鬼が出るって分かってたのに残ってくれたでしょ?皆が居てくれたから勝てたんだって思う……ので」
だんだん小さくなる風音の言葉に溜め息を零し、戦闘で乱れてしまった頭をくしゃりと撫でた。
「だからァ……嫌わねェって言ってんだろ。まァ、何にしてもだ。お前の怪我の手当てが済んだら一緒に行ってやる。俺の怪我なんて軽傷だ。行くならさっさと手当てすんぞ」
穏やかな実弥の表情に微笑み返し…… 風音は首を左右に振った。
そしてその反応に首を傾げる実弥にあるものを見せるため、羽織から左腕を抜き出し隊服の釦に指を掛ける。
そうなると実弥の頭の中は疑問符で埋め尽くされ、我に返ったように釦を外そうとしている手を掴んだ。
「こんなとこで服脱ぐ気かァ?!何考えてんだ!羞恥心ないにも程度が過ぎんぞ!」
「決して羞恥心を置き忘れてきたんじゃないんだよ?!とりあえず見て?きっとビックリするから」
服は脱ぐものの羞恥心は持ち合わせているらしい。
その証拠に頬が赤く染っており、脱ぐことに恥じらいを持っているのが分かる。
それでも実弥に見せなくては……と風音が決心したものを見るため、実弥は眉間に皺を寄せながら手を離した。
すると風音はいそいそと第二釦まで外し、そこから腕を抜き出して実弥へ見せたかったものに指を指し示す。
「肩の傷……塞がってんのかァ?どうなってやがる。痛みもねェのかよ?」
「うん。なんかいつの間にか痛みがなくなってた。傷口は私も今初めて見たんだけど……綺麗に塞がってるみたいだね?よし!と言うことで私の手当ては全く必要なし!さぁ、実弥君の手当てをしちゃいましょう!痛いところはどこ?血、出てたでしょ?」