第17章 芸術と嘘吐き
二人の視界の端に入ってくる辺りの光景はまだ暗い。
そろそろ夜明けが近付いていてもおかしくはないが、分身から目を逸らすわけにもいかない、時計も確認出来ない今は正確な時間は不明である。
「そうですね……でもどの未来でも玄弥さんたちが上弦の頸を斬ってくれていました。あと少しのはず」
「あと少しなァ……お前の血も俺の血も永遠と効力が続くわけじゃねェ。警戒だけは怠んなよ」
二人の視線の先には実弥によって粉微塵にされ酩酊状態に陥り、更には風音の血によって苦しみ再生ままならぬ分身の姿。
今現在は二人の血の影響で分身を地面に縫い付けているが、こうした優勢な状態はあと少しで終わりを迎える。
血の効力を分身に克服されれば後は持久戦。
実弥はともかくとして、風音は今回の奇襲で一番に戦闘を開始しており、おまけに麻痺毒までくらっている。
今はまだ事も無げに分身を見据えているが、激しい戦闘が再開されればあまりもたないだろう。
それを一番理解している風音は実弥の言葉に頷き……何かに反応して左腕を上に上げた。
「お帰りなさい、楓ちゃん。でもここは危ないから安全な場所に避難を」
風音の差し出された腕に降り立ったのは、必ず戻ると言っていた楓だった。
「ハイ……戦況報告ダケ。時透様、甘露寺様両名ニヨリ伍ノ討伐完了。肆ハ後一歩ノトコロマデ追イ詰メテマス。コノ分身ガ技ヲ出シタリ怪我デ消耗スルト、本体ハ弱体化スルヨウデス」
何とも有益な情報に二人は笑みを……鬼にとっては厭な笑みを浮かべて顔を見合わせ頷き合った。
「よくやったなァ、楓。爽籟が迎えに来てる、後は俺たちに任せて安全な場所で待機してろ」
実弥に背を撫でてもらい、一瞬であっても風音に笑顔を向けてもらった楓は頷き、すぐ近くで待機している爽籟へと向かって羽ばたいていった。
それを確認した二人は分身から距離を取り日輪刀を構え直す。
「あとひと踏ん張りだァ、風音。馬鹿ほど芥に血鬼術出させて弱体化させんぞ!分かってると思うが避けるだけじゃなく技もぶち込み続けて消耗させろ!俺の動きは気にすんなァ……行くぞォ!」
「はい!そういうのは得意です!」
流石は似た者同士の師弟。
嬉々として突っ込んで行った風音の後を、嬉々として実弥も追い掛けた。