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涼風の残響【鬼滅の刃】

第17章 芸術と嘘吐き


冷や汗を流す実弥へとクルリと向き直った風音の瞳は悲しげに揺らいでおり、先ほどまで分身に対して容赦ない煽りを言ってのけていたなど考え付かない表情である。

「師範……実弥君、私とのお約束忘れないで。私が実弥君の言いつけを守らず手を煩わせてしまったから強く言えないけど……痣、出てるんだよ?お薬飲まないと……」

涙声で言葉を詰まらせる風音の姿が実弥に一気に冷静さを取り戻させ、そっと差し出された小さな紙包みを受け取るまでに至った。

「あ"ぁ"……悪ィ。飲むから泣いてくれんな、後でお前の小言は聞いてやるから刀構えてろ」

分身が地面をのたうち回っていると言えど今は戦闘中である。
それを風音も十分に理解しているので、実弥が紙包みを開いたのを確認すると、刀を構え直して分身へと駆けていった。

(アイツ……痣出ても体に異常ねェつってたけど、すっげぇ異常あるじゃねェか。どうなってやがる)

薬を服用し熱による気怠さや悪寒はピタリと止んだ。
残ったのはそれ以外のもの全て。

それに加えて痣発現以前と比べて遥かに軽くなったように感じる体である。

「考えるのは後だァ……はァ、粉微塵に切り刻んでやる。風の呼吸 漆ノ型 勁風・天狗風!」

地面を踏み締め高く跳躍して風音と分身の間に割って入ると、風音は実弥の邪魔にならないよう後方へ飛び退き様子を伺う。

その際に瞳に映ったのは文字通り粉微塵に分身の体をいとも簡単に切り刻む実弥の姿。
そして実弥の死角から忍び寄る龍だった。

「夙の呼吸ーー」

それを放置するなど有り得ない。

忍び寄ろうが迫り寄ろうが、実弥に害なすものを風音が放っておくわけもなく、斬っても斬っても再生し生まれ出てくる龍を切り刻んだ。

そして実弥の側へと走りより、その実弥が執拗に破壊し続けている分身の体に引っ付いた太鼓の一つに日輪刀を突き刺し、辛うじて残っている分身の口の中に血を流し込む。

するとやはり猛毒なようで、龍を出現させることはおろか、再生すらままならず再び地面をのたうち回った。
それに重ねるように実弥も意図せず血を流しているので、この空間は正に鬼にとって地獄のような場所である。

「足止めはどうにかなりそうだが……キリがねェ。アイツら、本体の頸まだ斬れねェのかよ」
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