第17章 芸術と嘘吐き
いつの間にか震えの止まった体に苦笑いを零し、蜜璃は風音の手を握りしめて空中にいる鬼へと視線だけを向けた。
「分かったわ!私が無一郎君の所に向かうから風音ちゃんは不死川さんの所へ。さぁ、行きましょ!不死川さんの姿が見える場所まで送り届けるわ!何かあったら大変だもの!」
風音に視線を戻す頃には蜜璃の顔は花のように柔らかく可愛らしい笑みで満たされており、それにつられて風音も笑顔になるが……やはり首は左右に振られた。
「大丈夫です!ここから師範の元へ辿り着くまでは何も起きないはずです。今回はあまり役に立たないかもしれないけれど……蜜璃ちゃんにも先の光景を送ります。あとこれも……痣が発現したらすぐに飲んで下さい」
鞄から漁り出し蜜璃へと手渡したのは、無一郎へと渡した小さな紙包みと同じもの。
風音の体の特性を研究し、数々の失敗を繰り返しながらもしのぶが完成させてくれたものだ。
以前に炭治郎に渡したものも同じもので、確証はないが痣発現時の代償を極めて高い確率で克服できる薬である。
「胡蝶さん特性のお薬。きっと蜜璃ちゃんや時透さんを助けてくれます。師範には私から直接お渡しして、もしもの時は飲んでもらう予定です。……蜜璃ちゃん、後で必ず皆で会いましょうね?どうかお気を付けて」
祈るように蜜璃の手を握り締める風音をギュッと抱き寄せ、体を離す時にはやはり蜜璃は満面の笑みだった。
「お薬ありがとう!必ず皆で会えるから大丈夫だよ!また後でね!風音ちゃんも気を付けて!」
大きく頷く風音に蜜璃も頷き返し、それを合図に二人は背を向けて互いが向かう場所へと足を動かした……のだが。
「風音ちゃん!しのぶちゃんのことも『胡蝶さん』じゃなくって『しのぶちゃん』って呼んであげて!きっと喜んでくれるよ!」
戦闘と全く関わりのない内容であっても、それが反対に風音の緊張を解し体に入っていた余計な力が抜けた。
「はい!今度お会いした時にそう呼んでみます!ありがとう、蜜璃ちゃん!」
笑顔で互いが手を振り合った次の瞬間には、二人共が目的地へと身を翻して駆け出していた。
怒りや焦燥を心に抱いている実弥と合流出来るまであと少しである。