第17章 芸術と嘘吐き
木や地面に叩き付けられるはずだった風音の体はふわりと優しい力で包み込まれ、衝撃など一切感じることなく無事に地上へと帰還を果たした。
優しい力で包み込んでくれたのは蜜璃。
担当地区の鬼の討伐後、全力でこの里に来てくれた蜜璃が風音を抱きとめてくれたのだ。
「ありがとうございます、蜜璃ちゃん。お陰様で無事に地面に足をつけることが出来ました。蜜璃ちゃんは怪我してないですか?もし怪我をしているなら……」
「私は怪我なんてしてないよ!それより風音ちゃんの怪我をどうにかしなくっちゃ!傷薬は?包帯も持っているわよね?えっと……その大きな鞄の中に入ってるのかしら?」
慌て涙目になる命の恩人である蜜璃にキュッと抱きつき、そのままの格好で首を左右に振った。
「私は大丈夫なんです。蜜璃ちゃんが怪我してなくてよかった……本当にありがとうございます。鬼に運ばれている途中で、蜜璃ちゃんが私を抱きとめてくれる未来が見えて……それを悟られないように挑発し続けてました。成功して……良かったです」
挑発し続けていた……との言葉は明らかに実弥の弟子だと知らしめるものだった。
しかしいつ落とされるやも分からない、肩を捻じ切られるやも分からない状況は風音にとって途轍もない恐怖だったらしく、体が小刻みに震えている。
その恐怖が少しでもおさまるようにと蜜璃は背を撫でてやり、柔らかな声音で語り掛けた。
「間に合ってよかった。もう大丈夫だからね、ここには不死川さんも無一郎君もいてくれるから。私もここに来たからには絶対に誰も死なせない。本当はね、風音ちゃんには休んでてもらいたいんだけど……柱の皆のお話を聞く限り、休んでくれそうにない……よね?」
「うん。蜜璃ちゃんに助けて貰って、柱の皆さんや炭治郎さんたちが戦ってくれているのに、私だけ休んでなんていられませんから。怪我もそんなに酷くないですし。あと……」
蜜璃から少し体を離して見上げた空には吐血しもがき苦しんでいる分身の姿がある。
「流し込めた血の量は僅かだったので、もうすぐに回復してしまう。ここで足止めをあれにくらうわけにいきません。置いてきてしまった時透さんやあれの他の分身と戦ってる師範たちの加勢に行かなきゃ」