第17章 芸術と嘘吐き
無一郎が風音からの贈り物を手にする少し前、実弥は四体に分裂した内の二体の鬼の分身……芥を相手にしていた。
しかし芥と言えど上弦の肆という塵屑から出された芥なので、実弥であっても一筋縄でいくようなものではない。
「テメェらァ!ここに残るって決めたんなら死んでもクソ共を風音んとこに行かせんなァ!あっちのが圧倒的に人数少ねぇってこと忘れんじゃねェぞォ!」
血管がはち切れんばかりに声を張り上げながらも、実弥は縦横無尽に落とされる雷を避けてはもう一体の鬼へと斬撃を繰り出し、隙あらば玄弥たちが相手取る鬼を自分の方へと引き込もうとしている。
四体の鬼、それぞれの血鬼術は
雷
体術
怪音波
風圧
この内、怪音波を出す鬼は空を飛べる。
実弥が受け持っているのは雷と体術を駆使する鬼の分身。
玄弥たち三人は怪音波と風圧を駆使して攻撃してくる鬼の分身だ。
(クソ……あと一体くれぇなら俺で受け持てんのに、雷のクソ野郎が邪魔しやがる!アイツは大丈夫なんだろうなァ?!時透がすぐに向かってるはずだが……)
「鬱陶しいなァ、ォイ!さっさと一体になっちまえよ!こんな回りくどい……」
こんな回りくどいことをするな。
そう言いかけて実弥の脳内に鬼が考えているであろう事柄が浮かんでしまった。
「クソがァア!お前らァ!こっちのクズ共と変われェ!」
「あ……は、はい!すぐに」
炭治郎がいち早く反応して実弥の相手している鬼と交代しようと体を動かしたが、それは風と雷で阻害され叶わなかった。
「儂らが貴様にそんな猶予を与えると思っているのか?貴様らと遊んでやるのもここまでだ!」
ニヤリと嫌な笑いを浮かべた怪音波を出す鬼は炭治郎たちから離れて空高く舞い上がり、その体を風を操る鬼が柏の葉を大きく振ってある方角へと吹き飛ばした。
ある方角……それは風音のいる方角だ。
「不死川ーー!その銃寄越せェ!」
「え?!」
雷に打たれようがお構い無し。
実弥は戸惑う玄弥へと走りよって銃を奪い、今し方風を操った鬼に向かって何発も鉛玉をぶち込んだ。
しかしそれで風音の方角へ飛んで行った鬼の動きを阻害出来るわけもなく、実弥には怒りや焦燥が残っただけだった。