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涼風の残響【鬼滅の刃】

第17章 芸術と嘘吐き


怒りで風音自身の体がふらついているなど、無一郎に指摘されるまで気が付かなかった。
言われてみれば視界が左右に揺れており、僅かながら体全体に痺れが出てきている。

「時透さんが駆けつけて下さって随分落ち着きました。体の揺れは……金魚の針が側頭部をかすめた影響です。痺れがありますけど僅かなので問題ありません。風の呼吸 漆ノ型 勁風・天狗風」

本当に落ち着いているのか……無一郎でさえ疑問に思うほどの行動が風音から飛び出した。

背に庇っていたはずの風音が宣言通り、体に負担が掛かるであろう風の呼吸を使って鬼に切りかかっていってしまったのだ。

「落ち着いてないじゃん!もう……仕方ないなぁ。霞の呼吸 肆ノ型 移流斬り」

ただただ無表情で風の呼吸を連発して鬼に斬撃を繰り出す風音を鬼から離すように、無一郎は流れるような動きで割って入り自分と同じくらいの体を軽く押し飛ばした。

それに驚きながらもすぐに体勢を整えた風音に霞柱である無一郎から言葉が放たれる。

「人はね、自分ではない誰かのために信じられない様な力を出せる生き物なんだって、昔父さんが教えてくれた」

「貴様らさっきから私を無視して……」

「うるさい黙ってて。後でそのひしゃげた壺ごと相手してあげるから待ってなよ」

辛辣な煽りに鬼が怒り狂って経皮毒をもつ魚を再びけしかけてくるが、それは無一郎の流麗な技によって全て撃ち落とされた。

風音一人で対処した時は隊服に体液がかかり危うかったのに、全く危うさを感じ取れない無一郎の動きに風音は表情に色を戻させた。

それを確認すると、無一郎は風音の隣りに戻り頭を撫でてやる。

「さっきの続きだけど、今の風音ちゃんの行動は……それだったんだね。誰かのために体の不調に気付かないくらい本気で怒って鬼に向かっていった。だから落ち着かなくてもいいよ。俺が君の動きに合わせる」

何か返さなくては……記憶が更に戻ったと思われる無一郎に何か言葉を返さなくてはと口を開いた瞬間、風音の左肩に激痛が走り、容赦ない力で上空へと連れ去られた。

「時透さん!これを!」

驚き目を剥く無一郎へ、風音自身も何が起こったのか分からない状況下で、数個の小さな紙包みと無一郎の未来の光景を送った。
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