第17章 芸術と嘘吐き
風音が救援を発して暫くした頃、無一郎は暗くなった森の中を一人駆けていた。
「よりにもよって風音ちゃんのところに出ちゃったか。会敵次第、開口一番の言葉をせっかく考えてたのに。それにしてもあの子が好戦的なんて本当かな?」
実弥から改めて聞かされた話によると、普段は基本的に笑顔、たまに泣いてる少女らしいが、鬼を前にすると笑顔なんて消え去り、率先して鬼の頸を取りに行くらしい。
因みに無一郎がその中でも一番に驚き笑ったのが
「「鬼の戯言聞く暇あるなら頸斬っちまえ」」
と二人声を揃えて言ってのけた事だったとか。
「上弦相手にも実際にやってるんだろうなぁ……不死川さんの継子だし階級的にもすぐには殺られないと思うけど……心配だなぁ」
鬼を激昂させて返り討ちにあっていなければいいが……と考えながら速度を上げると、聞きなれた声の聞き慣れない言葉が無一郎の耳に響いてきた。
『うるさい、黙って!あんたの汚い言葉も声も聞きたくない!ぶちのめしてやる!』
「風音ちゃん?!ぶちのめすって……不死川さんの言葉そのままじゃん!」
もうすぐ森を抜けて里の中へと到着する。
それに伴い声の主である風音と、事前に見せてもらった通りの上弦の伍の姿が映し出された。
続いて聞こえてくる言葉や声音からは風音の静かながらも抑えきれない怒りが込められており、無一郎は首を傾げつつ気配を消して鬼の背後に回り体に技を見舞ってやった。
そうして風音を庇うように間に入る。
「遅くなってごめんね。風音ちゃん、取り敢えず落ち着きなよ。この……全てに対して尊敬出来そうにない鬼に何か言われたの?」
背に庇っているので表情は見えないが、カタカタと刀が小刻みに震える音がするので、先ほどの言葉も合わさり怒りから震わせているのだと分かる。
そして……やはり鬼に対して怒りを露わにした。
「風の呼吸と私の血で激痛を味わわせながら地獄に落としたいくらいの……変わり果てた人々の姿を見せられ言葉を吐かれました」
何を見せられたのか、無一郎は鬼への警戒を解かないまま視線だけを動かして風音の背後に庇われている何かを確認した。
「……そうだね。君が怒る気持ちは痛いほど分かった。だけどね、まず風音ちゃんは落ち着きなよ。体、ふらついてるし」