第17章 芸術と嘘吐き
「これは……そうですね、数ヶ月前に作った作品なのですけど、何が一番大変だったと思いますか?防腐処理なんですよ!この質感、形状を保つために」
説明の途中。
あれやこれやと手で指し示しながら説明していたはずなのに、いつの間にか鬼の作品は忽然と姿を消していた。
それもそのはず…… 風音がその細い体の何倍も重さのあるはずの作品を抱え、元いた場所に目にも止まらぬ速さで戻って背に庇っていたからである。
「これ以上この人たちの尊厳を奪うような言動は許さない!意味分かんない!あんたの頭ん中、全てが吹き飛んでんじゃないの?!こんなの作品じゃない!ただの虐殺だ!芸術家の恥晒し!」
「小娘が……やはりお前の目は腐り果てている!この素晴らしい」
ぼとり
と地面に鬼の短く歪な手が転がり落ちた。
鬼は痛みに顔を歪め、風音は無表情で鬼の目の前まで迫り寄り、日輪刀を振り上げていた。
「うるさい、黙って!あんたの汚い言葉も声も聞きたくない!ぶちのめしてやる!」
実弥でさえ聞いた事のない風音らしくない言葉と共に技が放たれ、鬼の胴体が切り裂かれる。
だがそれだけ。
手を切り落としたり胴体を切り裂いたとて鬼が死ぬわけもなく、ただ数秒間痛みに顔を歪めるだけだ。
しかし風音の攻撃は鬼の癪に障ったらしく、ようやく血鬼術を繰り出してきた。
“一万滑空粘魚”
そこかしこにあった壺から数え切れないほどの魚が放出され、それら全てが風音に的を搾っている。
「風の呼吸 肆ノ型 昇上砂塵嵐!」
それがどうしたと言うのか。
風音は先を見て鬼がどんな血鬼術を使用するのかを知っているし、この場にいる柱や剣士たちも全員が知っている。
体がついて行くのかの問題は残るものの、事前に知っていれば対処も可能なのだ。
結果、経皮毒をもつ魚の体液がいくつか隊服に付着したが、どうにか体に付着することは避けられた。
「汚いなぁ……最悪。はぁ……あんたは風の呼吸で倒す。知ってた?風の呼吸が技の中で一番痛いんだって。この人たちの苦痛や無念を考えるとまだ優し過ぎるけど……楽になんて死なせない!」