第17章 芸術と嘘吐き
「あーー……逆鱗に触れちゃったみたい」
触れちゃったものは仕方がない。
そもそも逆鱗に触れようが触れまいが風音からすればどちらでもよく、ただ無一郎に上弦の伍が出現したと伝えるためだけに切ったに過ぎないのだ。
「……まだ出てこない。今のうちに包帯で手と日輪刀を固定して……っと。はぁ、来ないならこっちから行きますよ!ここにある壺なんて全部切っちゃうから!」
日輪刀を振り上げ壺を切ろうとしたが、硬い何かで防がれてしまった。
何に防がれたのか?と考えるまでもない。
本当にかつて人だったのかと疑問を呈したくなる見た目をした鬼が壺から姿を現し、その体で壺を守ったのだ。
「貴様……これほど美しく芸術的な作品を何の躊躇いもなく、よくも壊してくれましたね」
どうやら風音の壊した壺は芸術的な作品らしい。
芸術的なのもは風音にはよく分からないが、目の前の壺の見た目は別に何の変哲もない普通の壺にしか映らなかった。
そんな普通に映る壺より風音が全力で気になるのは、やはり目の前にいる異形も異形の鬼の様相である。
本来目がある位置に口があるなど斬新過ぎて言葉も出ない。
「夙の呼吸 壱ノ型 業の風」
言葉が出ない代わりに技を出して壺を狙うが、やはり鬼によって防がれ破壊することは叶わなかった。
「人の話を全く聞かない奴ですね!分かりました、その腐りきった眼で見ても分かるほどに素晴らしい作品を見せて」
「いらない。あんたの作品なんて微塵も興味ないし、私の鬼狩りでの鉄則は『鬼の戯言聞く前に頸斬っちまえ』だから。夙の……え?」
いらない……と言ったのに、鬼が誇らしげに出てきた作品と言われるものを強制的に見せられた。
それが目に入った瞬間、風音の表情が悲壮に満ち、体全体が小刻みに震え出す。
「な……に?作品って……人……じゃないの?」
「そう!その驚く顔を見たかったのです!素晴らしいでしょう?少し前に作った作品なんですけど……ほら!ここをこう捻ると……」
断末魔の悲鳴が辺りに響き渡った。
鬼が作品だと言ってのけたものは、壺から複数人の人間が……まるで縫い付けられてしまったかのように一塊となり、それぞれが苦悶の表情を浮かべているものだった。