第17章 芸術と嘘吐き
「私は大丈夫ですよ。呼吸で出血は止められますし……それより何より、ここに上弦の伍が間もなくやって来ます。里長様、あの子と一緒にこのお家から離れて下さい。辺りの敵は排除済みですし、上弦の伍はまず間違いなく私に標的を絞るので危険はありません。……鋼鐵塚さんたちがいる鍛冶場なら安全です」
里長の先をこっそり見せてもらっても、危険らしい危険はこの先訪れない。
鍛冶場にさえたどり着くことが出来れば、風音が上弦の伍を足止めして守り抜くことが出来る。
数十秒後に現れる伍に里長たちが遭遇しないよう、尻もちをついている里長に肩を貸して立ち上がらせてやると、ふわりと暖かなものが頬に当てられた。
「……分かった。ここにおっても足手まといにしかなれへんし、何でここにおるか分からんけど、小鉄と一緒に鍛冶場に行かせてもらうわ。嬢ちゃん、死んだらアカンで。頑固で剣士から嫌煙されがちな蛍が泣いてまうからな」
頬に触れた里長の小さくも鍛人として今も尚多くの刀を作り続けている固くなった手のひらは、不思議と柔らかく暖かく感じた。
その優しさが何とも風音の心を満たし自然と表情が綻ぶ。
「死にません。ご心配ありがとうございます。蛍さん……というのは鋼鐵塚さんのことですよね?鋼鐵塚さんは刀作りに強い誇りを持っておられる方なので、嫌煙するどころか私は尊敬しています。鍛え直してもらったこの日輪刀で皆さんを必ず守ります。さぁ、裏口から鍛冶場へ急いでください」
「そうか。あの子に今度直接言ってあげて。喜ぶと思うから……じゃあまた後でな、嬢ちゃん。ここは任せたで」
頬に触れてくれた手を一度ギュッと握り返すと、いつの間にかこちらへ合流を果たしていた小鉄と目の前にいる里長を抱き締め、部屋の外へと待避させた。
「これで里の人は全員守れる。後は想定外だらけのこの状況をどう乗り切るか……だよね。蜜璃ちゃんの到着はまだだし……一人で戦うには強すぎる相手だから、技を放って時透さんに救援を求めないと。……あ、ちょうどいい所に壺発見!夙の呼吸ーー」
部屋の中へと向き直り目に入ったのは、偶然にも都合よく出現していた鬼のものと思われる壺だった。
それの内一つに狙いを定め全力で技を放つと、違う壺から怒り狂ったような絶叫が風音の鼓膜を震わせた。