第3章 能力と剣士
翌朝、風音が目を覚ますと……実弥の姿も爽籟の姿も部屋の中になかった。
起き上がって見回してもやはり姿はなく、シンと静まり返っていて混乱状態に陥った。
「……任務?でも任務に行く時は声掛けてくれるって言ってたし……どこ行っちゃったんだろ。実弥さんの部屋かな?」
嫌な音を立てる心臓や背中に伝う冷や汗など気にしている余裕のない風音は、立ち上がって廊下に続く襖を勢いよく開き実弥がいるかもしれない部屋へ足を動かした……と同時に背後から声がした。
「おォい、どこ行くつもりだァ?」
聞きたかった声に振り向くと、目にしたかった人の姿が瞳に映し出された。
「実弥さん!起きたら部屋にいなかったので、ビックリして実弥さんの部屋に探しに行こうとしてたところです。任務に行っちゃったのかと……」
シュンと項垂れる風音に溜息を零し、両手に抱えた物を前に突き出す。
「任務行くなら声掛けるっつっただろォ。ほれ、飯用意してもらったから食ってくぞ。昼から用事が出来た、お前も一緒に行くからしっかり食っとけ」
目の前に差し出されたのは美味しそうな朝餉。
どうやら作りたてのようでどの料理からも湯気が立ち上っている。
それらが乗った盆をキラキラと目を輝かせながら一つ受け取り、予定にはなかったはずの用事に首を傾げた。
「ありがとうございます!その……用事とは何ですか?私も一緒に行くって」
「お前が起きる前に本部から知らせが入った。飯食いながら話すからとりあえず中入れ」
あまり時間に余裕が無いのか、実弥は風音の返事を聞くことなく部屋の中に入りさっさと食事の準備に取り掛かる。
風音もいつまでもここで立っているわけにはいかず、実弥から雷を落とされても悲しいだけなので、そそくさと部屋の中に入って実弥の前に腰を下ろした。
そして食事を食べ始めると、本部に風音も一緒に行くことを告げられ……それ以降は何も話してくれなかった。
心做しか、実弥の雰囲気が悲しんでるような怒ってるような……ピリピリとした空気を纏っていたので、風音も何も言葉を発することをせず黙々と朝餉を腹におさめていった。