第3章 能力と剣士
「使い所難し過ぎんなァ。分からねぇ事も多い、無闇矢鱈とホイホイ使うんじゃねェぞ。鬼殺隊に入るっつっても、今日言って明日入れるもんでもないからな。まずはさっきみてぇに寝るんじゃなくてしっかり休め」
クイッと顎を動かした先は先ほどまで風音が死んだように眠っていた布団。
当たり前のことだが一人分しかなく、風音が使ってしまうと実弥が休むことが出来なくなってしまう。
「あの……私はほぼ半日寝たので実弥さんが使ってください。元々村では菰を敷いて寝てたから、私は畳の上でも十分体を休められるので」
何とも辛い風音の昨日までの生活に目眩を覚えつつ、実弥は座ったまま折れそうな肩を掴んでクルリと反転させ背中をポンと押してやった。
「いいから言われた通り休んどけ。俺は任務が入るかもしんねぇし……冨岡に借り作んの癪だからよォ」
「え?冨岡さん?え、えっと……そうだ!これ、持っててください!」
義勇がこの宿で実弥の任務の代打のために休んでることを知らない風音は首を傾げ、次の瞬間には勢いよく立ち上がってパンパンに膨れ上がった袋の元へイソイソと足を動かし袋の中をゴソゴソ……
「何やってんだァ?お前、疲れてんだからさっさと寝ろよ」
「怒られる前に寝ます!でもちょっと待って……あ、あった!」
呆れ顔の実弥の元に戻った風音の手の平には、小さな丸い容器が二つ乗せられていた。
それを手に取って蓋を開けると、形容し難い匂いを放つ軟膏……
「すっげぇ匂いだなァ……んで、これは何だァ?傷薬か何かかァ?」
「はい!匂いは改善の余地ありですけど、よく効くってにわかに評判だったんですよ!一つは実弥さん、もう一つは冨岡さんに。近くにいらっしゃるなら渡しに行きます」
とりあえず匂いを封印するために蓋をすると、実弥はため息をついて立ち上がった。
「冨岡には俺が渡しといてやるからお前はもう寝てろ……任務入れば声掛けっから。いいな?俺が部屋に戻って起きてやがったら……」
「?!寝ます!すぐに寝ます!……明日、一緒に実弥さんのお家に帰らせて下さいね?」
既に入口へと歩を進めていた実弥が頷いたのを確認すると、風音はようやく布団の中に潜り込み本当の意味で体を休める体勢を整えた。