第17章 芸術と嘘吐き
里長の元へと急ぐ前に風音は少し戻り、とある木の枝の上に飛び乗った。
再度いきなり姿を現した剣士の姿に驚いた少年にニコリと微笑み掛け、有無を言わさず抱き上げて里長の元へと急ぐ。
数秒間少年は時間を止めたものの、自分が鬼に対する対抗手段を持っていないことを思い出し、風音の腕から逃れるために手足をばたつかせた。
「僕がいたら足手まといになっちゃいますよ!ここに置いていってください!」
「置いていかない。私ならこの場にいる人を全員守れると見込まれて、師範や時透さんにここを任せてもらいました。柱の方々の判断を信じてますし、師範に鍛えてもらった私自身を私は信じたい。だから貴方も柱の方々や私を信じて」
腕の中で解放されようともぞもぞ動く少年の体を強く抱き締め離さないと示すと、少年は諦めたのか納得してくれたのか……頷き抵抗するのをやめた。
その姿に笑を零す。
そして距離の近くなった里長の先を頭の中に流し込み、顔を険しくして一気に速度を上げた。
「あのお家の中に里長がいるんだよね。二階まで飛び上がります!舌を噛まないようにお口を閉じていて下さい!」
少年が返事をする暇もなくふわりと浮遊感に見舞われ慌てて口を閉じると、いつの間にか部屋の中に座らされており、つい今し方まで抱きとめてくれていた少女は誰かを背後に庇って技を放っていた。
「夙の呼吸 弐ノ型 吹花擘柳」
風音が背に庇っているのは里長。
そして対峙している分身のようなもの……実弥曰く塵屑の芥は宙を漂う金魚だった。
頬を膨らませ口から放出したのは無数の太い針。
それらを技で弾き飛ばすも全てを弾き飛ばすことは叶わず、風音の右側頭部を掠めていってしまった。
「痛っ……里長様、遅くなり申し訳ございません。お怪我などはされていませんか?」
先を見た時の情報によるとこの針には麻痺毒が含まれているはずだ。
今はまだ辛うじて痛みだけなので、金魚を叩き切って背に庇っていた里長に向き直り怪我がないかの確認を行う。
「だ、大丈夫や。それより嬢ちゃんのが怪我しとるやんか……大丈夫なんか?頭から血ぃ出とるで。ちょっと待っとき、手当てしたげるからなぁ」
しゃがみこみ怪我はないかとくまなく視線を巡らす風音の側頭部に手を当てがったが、その手を握られて首を左右に振られてしまった。