第17章 芸術と嘘吐き
「さっそく想定外のこと……なんて、泣き言言ってる場合じゃない」
風音はひとまず自分の周りにたかっていた魚の壺を斬り捨てると、森の奥へ……里とは反対の方向へと全力で走り出した。
「里の人を守りきるって決めたならやり遂げる!……えっと、あ!夙の呼吸 伍ノ型 天つ風」
地面を強く踏み締めて高く舞い上がり、地面に着地したのは壺の残骸が地面に転がるのと同時だった。
突然の剣士の到着、魚の消失に驚き地面に尻もちを着いた少年に風音は苦笑いを零し、肩に担ぎ元来た道を戻って里に向かっているであろう魚の後を追う。
「ごめんね、今は安全な場所に連れて行ってあげられない。貴方はどうしてここに?里の皆さんと一緒に逃げなかったの?」
風音の当然の質問に少年は涙を拭い、決して居心地のよくないであろう肩の上で身体を震わせながら答えた。
「うん。一緒に訓練頑張った竈門さんや……喧嘩……みたいなのしちゃってた時透さんが謝ってくれたんだ。どうしても二人の力になりたくて……二人の日輪刀はまだ完成してないでしょ?囮になれば時間を稼げるんじゃないかって思って……」
跳ねっ返りの性格の者は意外と身近にたくさんいるのかもしれない……と心の中で親近感を湧かせながら、風音は少年を抱えている僅かに動かせる手でゆっくりと背を撫でてやった。
「そっか。いつも鬼殺隊を支えてくれてるのに、こんな時まで剣士たちのことを考え動いてくれてありがとう。貴方の想いは私が引き継がせてもらいます。……少し待っていてね」
視界にあの異形な魚が映り込んだ瞬間、風音は少年の返事を聞く前にふわりと跳躍して比較的安全と思われる木の枝の上に身を預けてやった。
「え?!ここ?!」
「フフッ、うん。すぐに……あの魚を倒したらすぐに戻るからここで待ってて」
ニコリと微笑んだ一瞬後に少年の瞳に映ったのは、本当に同じ少女なのかと思うほどに目元を鋭くさせた表情だった。
それともう一つ……ここから少し離れた場所から何か……木か家屋がなぎ倒されるような音。
方角はこっそり盗み聞きした時に頭に叩き込んだところ。
風柱が待機している方角だ。
もちろんこの音は風音の耳にも届いている。