第16章 里と狼煙
あれから三日経過した。
つまり鬼の襲撃がある日なのだが、本来はここにいなかったはずの風音と実弥も里へと在中している。
二人の日輪刀の修繕は無事に終了し手元にある状態だ。
この里にいる炭治郎や玄弥の日輪刀や南蛮銃の調整も完了し、本部からの通達で里で待機となっている。
「やっぱり全員の移動は出来なかったね。私は里長や残ってる人の警護……絶対に誰も殺させない。こっちに来るのは上弦の伍の分身か血鬼術かよく分からない魚……実弥君は上弦の肆の相手……ねぇ、実弥君、絶対に死なないで。たくさんの人が関わるから私の予知は確実じゃない、もし何かあったら」
上弦の鬼と今まで二度会敵したと言えど、二体の上弦の鬼が現れる場に遭遇するのが初めてな風音は軽い興奮状態と混乱状態に陥っている。
実弥に関しては正面切って上弦の鬼と会敵するのは初めてなので興奮状態が続いているが、取り乱してしまうほどではない。
夕日が差し込みそろそろ鬼の襲撃に備えなくてはならなくなった現在、いつも通りの力が出せるように……実弥は風音の腕を自分の方へと引き、僅かに震えている体を胸の中におさめた。
「死なねェよ。確実じゃなくったってお前が見た未来で誰も死んじゃいなかったろ?風音はまず自分の心配だ、柱の人数的にお前の側に誰も居てやれねェ。甘露寺がお前と合流出来るまで絶対に気を緩めんな、想定外のことが起こるかもしんねぇんだからなァ」
震えはまだおさまらないが浅くなっていた風音の呼吸は整いだした。
誰か失うのではないか、目の前でまた誰かが傷付き、涙を流さなくてはならない事態に陥るのではないか……
風音や実弥の心の中にはこういった不安が燻っている。
しかしまだ何も起こっていない今、そんなことを考え出したらキリがないし、それにばかり気を揉んでいては動かなくてはいけない時に動けなくなってしまう。
風音が不安や恐怖に押し潰されてそうならないよう、苦しくない程度の力で抱き寄せ師範として言葉を紡ぐ。
「お前はもう甲だ。ここにはお前が手本となるべき剣士がいること忘れんなァ。しっかり気ィ張っていつも通りぶち殺して来い、鬼の戯言」
「聞く暇あるなら頸斬っちまえ、ですよね。はい、分かりました。もう大丈夫です!師範、ありがとうございます」