第16章 里と狼煙
そう言われ無一郎は風音と初めて出会った頃まで記憶を遡ってみるも、記憶に残されていた風音は叱られてもすぐに持ち直しては笑顔で実弥の隣りに寄り添う姿だけ。
一度だけ……そう言えば自分が柱になってすぐ。
皆でご飯を食べていた時、実弥に外へと連れ出され戻った際に涙で瞳が潤んでいたように思うがやはり笑顔だった。
しかもその時は壁越しに風音から実弥への愛情表現の言葉を存分に耳にしていたので、そちらに記憶が持っていかれて涙で瞳が潤んでいたのは埋もれてしまっている。
「風音ちゃん……よく泣くの?ほっぺた膨らんでる金魚に似てるって不死川さんに言われても最終的に笑ってた子が?」
「おぉ……んな事よく覚えてたなァ。俺でさえすぐ思い付かなったわ。普段は薬作ったり帳面に何か書き込んだりで静かなもんだが……気が付きゃ泣いちまってる。ほら、風音。もう泣くなァ、時透がビックリしちまってるぞ」
実弥の言葉に俯き隊服にポタポタと涙を落としていた風音の体がピクリと反応し、無一郎の手を握っていない方の手で慌てて涙を拭った。
「すみません……ちょっと色んな感情が追い付かなくて。もう大丈夫です!時透さん、全てでなくとも記憶が戻って安心しました。戻っていない記憶も近々呼び起こされるはずです。私が先を見ていつ戻るか予測は立てられますが……」
泣いて兎のように赤くなってしまった瞳を向ける風音にクスリと笑いを零し、無一郎は首を左右に振った。
「記憶が近々戻るなら今じゃなくていいよ。それよりこの里が鬼に襲われるなら、そっちを優先して見てほしい。不死川さんも俺もそれを聞いて対処方法考えないとだしね」
「変わらず三日後に来るってんなら本部に連絡入れて、里の人らをどうするのかの判断も仰がなきゃなんねェからなァ。お前が見れる限りの先を見せろ、いけるな?」
二人の柱に促された風音は居住まいを正し、気持ちを切り替えて大きく頷いた。
「かしこまりました。私はいつでも大丈夫です。師範と……時透さんに私が見れる限りの先を送ります」
こうして三日後の鬼の襲撃に備え、多くの情報の会得と整理を行い、実弥が代表して本部へと伝えた。