第16章 里と狼煙
実弥の教えをしっかり忠実に覚え守り実行している風音はいつも通りの元気な顔を胸元から覗かせた。
聞く人が聞くと身震いする言葉も二人の間では当たり前の言葉で、きちんと言ってのけた風音に実弥は笑顔を向けて頭を撫でる。
「分かってんじゃねェか。何が来ようが手加減なんて一切考える必要ねェ、思うようにぶちのめせ。塵掃討して甘露寺と合流後、状況みて俺か時透んとこまで来い。分かったな?」
「はい!師範か時透さんの元へと向かう時も気を緩めず、想定外の鬼が出現した際は全力で応戦し、里への被害を食い止めて私自身の体や命も守り抜きます!」
この三日間で実弥が口を酸っぱくして言い聞かせたこともばっちりである。
鬼殺隊の為に日輪刀を作ってくれている人々を守りきる。
どんな状況でも焦らず、自分の身を守ることもしっかりする。
捨て身で……首を切ったりして戦闘不能に陥ることのないように。
今まで上弦の鬼と会敵した時、相手が相手なので仕方がないと言えば仕方がないのだが、基本的に風音は自ら瀕死の重傷を負っているので、今回はそれをさせないために言い聞かせていたのだ。
理由は言わずもがな。
柱が常に側に居てやれない状況で、人知れず鬼に取り込まれたり攫われたりする事態を避けるためである。
「よし!……ってお前、そのはち切れそうな鞄持ってく気かァ?戦闘の邪魔になんねェだろうなァ?」
実弥が気合十分に立ち上がった際に目に入ったのは、風音の後ろでやけに存在感を醸し出して鎮座する例の鞄。
その様相から『私もお供します!』と言っているように見える。
鞄の声を汲んだかの如く風音は大きく頷き、それを肩にかけて立ち上がった。
「連れて行きます!この中にはたくさんのお薬が入っていますので!改良したお薬も数え切れないくらい!皆さんが持てない分、運搬に慣れた私が持ち運び配る予定ですので!」
「……そうかィ。戦闘の邪魔になんねェなら好きにして構わねェが……はァ。風音、持ち場に移動すんぞ。生きて戻れ、生きて戻ればいいとこ連れてってやる」
「いいところ!それは是が非でも生きて戻らないとですね!……師範もどうかお気を付けて」
上弦相手に生きて戻る。
二人はそう約束して共に部屋を後にした。
この里にいる者全ての命を繋ぐと決めて。