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涼風の残響【鬼滅の刃】

第16章 里と狼煙


無一郎の涙で揺れる視界に映るのは柔らかに微笑んでくれている風音と実弥。
今まで何度も見ていたはずの二人の笑顔は無一郎にとってやけに鮮明で眩しく、思わず目を細めて表情を和らげた。

「俺こそいきなり泣いてごめん……もう大丈夫。不死川さん、よく気にかけてくれてたのに返事すらしなくて、ごめんなさい。風音ちゃん、何度も嫌なこと言ってごめんね」

一人称の変化、過去を思い出したような謝罪……そして覚えられなかった風音の名前を口にした無一郎に、二人は同時に顔を見合せた後にそれぞれが無一郎の手を握り締めた。

「気にすんなァ!んなもん俺が気にしてるわけねェだろォ!」

「嫌なことなんて一度も言われた記憶ありませんよ!私の他愛のないお話にいつも付き合ってくれて、感謝しかしてません!」

変わらず笑顔を向けてくれている二人にホッと息をついて笑顔を向けると、更に笑顔が深まり握ってくれている手の力も強まる。
それが無一郎の心の中を暖かさで包み、虚無に映っていた全てが鮮やかな色で彩られた。

「ありがとう!まだ全部ではないかもしれないけど、多分殆ど思い出したと思う。俺は両親と双子の兄と山で暮らしてたんだ。情けは人の為ならずって言葉は父さんに教えて貰って、両親が亡くなってから兄さんと話した思い出深い言葉だった」

笑顔ながらも悲しみの燻る表情、紡ぎ出された言葉から両親だけでなく兄もこの世にはいないのだと二人とも何となく察した。

「そうだったんですね……あの、上手く言えないけれど……私はもちろん、実弥君も時透さんが大切で大好きです。悲しくなったり辛くなれば頼ってください。一緒にご飯食べたり鍛錬したり……任務に行ったり……しましょう。すみません……時透さんの記憶が戻って嬉しいのに……涙が出てきてしまって」

記憶が戻って嬉しいはずなのに、その記憶を失ってしまうほどに心に傷を負っていた無一郎を想うと風音の胸が激しく痛み、意思とは関係なく涙が頬を濡らしてしまう。

そんな心境を察した実弥は風音の肩を抱き寄せ頬を頭に預けると、どうしたものかと眉を下げている無一郎に笑いかけた。

「悪ィなァ。風音は嬉しくても悲しくてもすぐ泣いちまうんだ」
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