第16章 里と狼煙
頭の中で考えていたはずがいつの間にか口に出ている。
それに実弥と無一郎が反応して風音に視線を向けるが、当の本人は一向に気付くことなく独り言を続ける。
「あの言葉を伝えたのが時透さんのご両親ならば、実弥君や炭治郎さん、あとは私の両親のように優しい人たちだったはず。そう言えば時透さんのお顔ってすごく穏やかで優しいから……実弥君!さっきの言葉について時透さんはご両親とお話ししたんじゃないかな?えっとね、どうしてそう思ったかって言うと……」
「あ"ぁ"……全部聞こえてたから説明いらねェよ。お前、途中から永遠と一人で喋り続けてたぞ。なァ……時……透?」
言葉として口にしていたことに驚いたのも束の間、実弥が無一郎に視線を戻したのを目で追うと、更に驚く光景が目の前で起こっていたので、自分についての驚きなんてすぐに消え去った。
……無一郎が涙を流していたからだ。
「時透さん?!え、あ……どうしよう。私、嫌なことを言っちゃっいましたか?!と、とりあえず手拭い!確か鞄の中に……」
傍らに置いていた鞄から手拭いを引っ張り出し、無一郎の涙につられた風音も瞳に涙を滲ませながら頬を拭ってやる。
それでも無一郎の涙は次々と溢れ出してきてしまうので、罪悪感に襲われた風音が助けを求めるように実弥へと向き直り……本格的に涙を流し始めてしまった。
目の前で年下の二人が違う理由で共に涙を流す姿を見た実弥は苦笑いを浮かべ、風音に対しては頬を撫でてやり、無一郎に対しては頭を撫でてやることにした。
「風音まで泣いちまってどうすんだァ?時透はお前の言葉に何か糸口を見付けたんじゃねェの?少なくとも時透はお前の言葉に傷付いて泣いてんじゃない。先に風音が落ち着け」
実弥が言うのだからきっとそうなのだろう……
つられて泣いている場合ではなく自分も無一郎を慰めなくてはと、涙を拭って実弥に頷き返した。
そうして視線を無一郎へと戻し、頬に添えられた実弥の手の暖かさを伝えるように、僅かに震える手を未だに涙の流れ続けている頬に添えた。
「ごめんなさい。涙を流させてしまうつもりはなかったんです。実弥君も私も時透さんが落ち着くのを待ってますから。悲しくならないよう、寂しくならないよう……側で待ってます」