第16章 里と狼煙
「へばらないよ。実弥君の力になれるなら一時間でも二時間でも粘れるように努力するから。ありがとう、実弥君。踏み入った話を聞いてくれて……ゲホッ」
家族の問題という繊細な話をしている間、喉の痛みを必死に堪えていたらしい。
しかしその話が一区切りついたことにより、元々限界だった喉が再び助けを求め出してしまった。
いくら鬼との戦闘を想定した手合わせだったとしても、風音を咳き込ませてしまう要因を作った実弥はバツが悪くなり、眉根を寄せながら頬に冷や汗を流す。
「あ"ぁ"……やっぱやり過ぎちまったなァ。水飲んで部屋戻るか。朝飯、食えそうか?痛ぇなら粥かなんか作ってもらうが……」
「やり過ぎじゃない!だって実弥君の喉は平気でしょ?私の喉が軟弱なのに加え……ケホ、無駄な動きが多いって証拠だよ。炎症止めを飲むから大丈夫」
そう言って風音は例の如く、張り裂けそうなほどにパンパンなのに張り裂けない不思議な鞄を置いている場所へと歩み寄り、まずは水で喉を潤し小さな紙包みを取り出して口の中に流し込む。
後ろ姿しか確認出来ない実弥であっても、風音の体が大きく跳ねたので物凄く喉にしみたのだと分かる……
「しみてんじゃねェか……ったく」
跳ねた姿のまま固まった風音に歩み寄った実弥は鞄を肩にかけ、風音を片腕でひょいと抱え上げてやった。
「運んでやるからお前は水飲んどけ。……むせて俺の頭に水吹き出すなよ?」
既に歩き出している実弥の頭を腕でふわりと抱え安定を保つと、水の入った竹筒を見遣りこくりと頷く。
「ありがとう!お言葉に甘えて……ケホッ、お水飲ませてもらいます!……ん"っ?!ぐ……」
危うく水を吹き出し実弥の頭を水浸しにするところだった風音に冷や冷やしながら実弥は森を歩いて行った。
その二人の微笑ましい?姿を木の影から見守る剣士二人。
「な!言っただろ?不死川さんは玄弥を嫌ってないって。だから怖がらなくていいんだ」
「……あぁ。……にしても兄貴の鍛錬すげぇ厳しいな。お前んとこの煉獄さんもあんな感じか?」
「うーん……うん!負けず劣らず厳しいよ!でも風音ほどの鍛錬はまだしてない。俺たちも風音に負けないよう頑張ろう!」
よりにもよって実弥にとって一番見られたくなかった二人に見守られていた。