第16章 里と狼煙
一度言葉を切って風音は実弥の表情や雰囲気を再度確認してみる。
やはり険しい表情であり雰囲気も張り詰めているが、先を促すように見つめ返してくれていたので、拳を握り締めて続けた。
「実弥君が大好きっていう気持ちが玄弥さんと一緒だから……だから……その……今の玄弥さんの現状で受け入れられなかったり、許せないところがあってもいい。でもね、鬼殺隊隊士という明日の我が身も知れない身だからこそ、もし何かあった時に実弥君が後悔しない道を選んでほしいなって思う。……い、以上です。年下で弟子のくせに生意気なこと言ってごめんなさい」
生意気だなんて思えるはずがない。
目の前で頭を深く下げる少女が自分の父親の頸を斬った後、父親に対する後悔を泣き崩れながら吐露したのを目にしたのだから。
そんな少女の、どんな形であれ実弥に自分と同じような後悔をして欲しくないと紡ぎ出された言葉通りに出来るかはまだ分からない。
分からないのだが……気分を害することをされていないのに頭を下げ続けられるのは居心地が悪く、風音の頬を両手で包み込んで顔を上げさせた。
「怯えんな、別に玄弥のことをお前に言われたからって、怒鳴ったり嫌ったりしねェよ。敢えて言わせてもらうなら……俺は今でも風音と玄弥を鬼殺隊から抜けさせてェって思ってる。それはこれからも絶対変わんねぇんだ」
頬を包み込んでくれている実弥の手の力はとても優しく、表情もそれと合間うように穏やかで柔らかなものとなり、風音の強ばっていた体の力が抜けると共に緊張が解れ、ふわりと笑みが零れる。
「うん。私はそんな実弥君だからこそ隣りで支えたいって思うし、誰より何より大好きだって思う。でも優しすぎて時々心配になっちゃう。実弥君が疲れた時は私に寄りかかってね?私の全てを使って支えるから」
今の言葉を体現するように実弥の背に回されてきた腕の力はいつもより少し強く、支えようとしてくれているのだと伝わってきた。
それが殊の外心地良くて、こっそりホッと息を零してから抱き締め返し、肩口にそっと頭を預ける。
「こんな細けりゃ俺が寄りかかったら壊れちまいそうだなァ。だが……お前が俺との手合わせで一時間粘れるようになった時に考えてみるわ。……途中でへばんじゃねェぞ」