第16章 里と狼煙
シュンと風音の雰囲気が一気に落ちたのが実弥に伝わった。
この雰囲気になるということは実弥が言ったことが的を得ていたことを意味しているのだろう。
「刀鍛冶の里……鬼の襲来があるみたい。見えたのは一瞬。炭治郎さんが経験するであろう未来。そこに私たちはいなかったから、私たちの刀が出来てこの里を去った後だと思う。炭治郎さんや禰豆子さんと一緒に玄弥さんも戦ってたよ」
抱き寄せているので表情は見えないが、きっと酷く落ち込んでいるに違いない。
それが分かるほどまでに声音と体が震えている。
実弥とてこの里が襲われるなど夢にも思っていなかったし、炭治郎たちはともかく最愛の弟である玄弥が鬼と戦うのだと聞かされると動揺する。
しかし師範であり柱である自分が動揺を見せれば風音が更に動揺してしまう……と感付かれないように小さく息をついて気持ちを落ち着かせてから慎重に言葉を返した。
「そうかィ。だが焦る必要なんてねェ。これ以上お前が先を見なくても、今までの情報だけである程度この里に鬼が来る日が絞れる。後は俺がどうにかしてやるから風音は心配すんなァ」
「ありがとう……でも正確な日を知るために先を見るよ。皆の怪我を確実に減らしたいから。……ねぇ、実弥君。怒られるの覚悟で踏み入ったことを言ってもいい?」
鬼殺に対してあくまできかん坊になる風音は予想通り。
後は踏み入ったことについて。
里での戦いで怪我を負った玄弥の姿を見て何かを感じたのだろう。
それを聞くために、実弥は風音を胸元から解放して見つめた。
そこには怯えているような悲しんでいるような……とにかく聞かされる実弥と同じくらいに様々な感情の入り交じっている風音の姿があった。
聞きたくないと言いたかったが今まで風音は踏み込んだことを一切言ってこなかった。
いい加減に聞いてやらなくてはまた溜め込んでしまうのは確実なので、険しい表情になっていることを自覚したままでも頷くしか実弥に残された道はなかった。
「言ってみろ」
「うん。あのね、玄弥さんは実弥君にどれだけ突き放されても鬼殺隊を辞めないと思う。大切で大好きで……この世で唯一無二のお兄ちゃんを誰よりも側で守り支えたいって思ってるから。私は兄弟がいないけど、玄弥さんの気持ちは痛いほど分かってしまう」