第16章 里と狼煙
「甘いなんて言われないくらいに強くなります!師範みたいに強くなって……ゲホッ、今まで守れなかった人の分も他の人を守りたい!」
風音の腕を拘束する実弥の手が考えられないほどの力で跳ね除けられようとしている。
いくら実弥の挑発に感情が昂っているといえど、火事場の馬鹿力なんて生易しい力などではなく、実弥の視線が咄嗟に風音の右腕へと移された。
「お前……痣出そうになってんぞ!分かった、離すから落ち着け。いいなァ?」
「え?う……ぐ、はぁ。分かりました。もう落ち着いたので……安心して下さい」
拘束を解いても風音は地面から起き上がることをせず、解放された姿のまま地面に横たわっている。
しかも体が小刻みに震えているので、泣いているのではと実弥の中に焦りが生まれてしまった。
「悪ィ……やり過ぎたか?」
「鍛錬に……やり過ぎなんてありません。師範にこれだけ鍛錬を付けてもらっているのに……ゲホッ、応えられないことが悔しいんです」
いつもならどれだけ扱かれ叩きのめされても、すぐに立ち上がって実弥の元へ駆け寄り笑顔を向けていた。
反省点を述べて実弥から助言をもらった後は満面の笑みで手を握りしめ、ご飯を食べようと促してきていた。
しかし今はゆっくりと立ち上がって実弥をまっ直ぐに見つめ静かに言葉を紡ぐ。
「死にたくない、喰べられたくない、鬼になんてなりたくない。でもそれ以上に師範や仲間に傷一つ作らせたくない。そう思ってるのに私はまだ弱いまま。私は弱い私が心底腹立たしい。だから師範は謝らず叱ってください、もっと鍛錬に励めって」
(……鬼殺隊入って二年やそこらの女相手に言えねェだろォ。柱なんのに五年かかるって言われてんだぞ?それを二年で柱になる資格もぎ取ってんだぞ?……俺の言葉もあれだったが、何か焦ってんのか?)
無邪気な声音ではなく凛とよく響く声音はいつもの風音らしくない。
そんないつも通りではない風音の頭を抱き寄せ、背をポンポンと叩いてやった。
「前にも言ったがお前が望む限り稽古も鍛錬も付けてやる。ただ闇雲にがっつくな……風音、お前……何か見えたんだろ?焦んなっつっただろうが」