第16章 里と狼煙
「ゲホッ!師範!喉切れ……たみたいです!お口の中が血の味……」
「鬼はそんなの待っちゃくれねェ!喉切れようが手足がもげようがお構いなしだァ!それでも今、この手合わせ如きで休みてぇってんならとっとと鬼殺隊なんか辞め……」
「辞めない!グッ……ゲホッ、絶対辞め……ません!現状報告しただけです!夙の呼吸 参ノ型 凄風・白南風!」
刀鍛冶の里にある森の中。
手合わせと言う名の実弥による激しい鍛錬を風音は懸命にこなしているところである。
先の会話通り、風音は休憩など与えてもらえず呼吸の技を永遠と繰り出すことにより血を吐いていた。
それでも実弥の木刀を振る手はとどまることを知らず、風音の技を易々と受け流しては反撃を繰り出す。
「現状報告とは余裕じゃねェかァ!一太刀でも俺に浴びせてからすることだよなァ!」
実弥が木刀を振り上げると風音がこの場で何度も耳にした甲高い音が辺り一帯に鳴り響き、気が付けば風音の喉元には木刀の切っ先が容赦なく向けられていた。
「この手合わせでお前は何回死んだァ?」
「……ケホッ、三回……死んでます」
風音に許されたのは技を使うことと予知能力を使うことだけ。
まだまだ未知の領域である痣に関しては発現させないようにと事前に言われていたので、素の力での手合わせということになる。
「前に言ったよなァ?上弦の鬼は柱三人分の力持ってるってよォ。この短時間で俺に三回も首取られてるようじゃあ、塵屑野郎どころか上弦の鬼でさえ遭遇したらすぐ殺されんぞ」
「返す……言葉もございません。でも……まだ終わリじゃないです!」
自分に向けられている木刀を握って強く引き、実弥の手首を掴んで背中へと回して拘束……しようとしたが、反対に手首を掴まれて地面にうつ伏せで倒され拘束されてしまった。
「おぉ、おぉ。威勢良いじゃねェか。だがまだまだ甘ェ!奇襲かけんなら視線は動かしちゃいけねェよなァ。動きバレバレだっつーの」
剣術でも技でも体術でも及ばない。
もし体格が実弥と同じくらいであったとしても適う気が全くせず、拘束された腕の痛みと不甲斐なさに胸が痛み涙が滲みそうになる。
そこへ更に風音を動揺させるものが脳内を駆け巡った。