第16章 里と狼煙
「うん……でも今日は実弥君も鍛錬で疲れてると思うから明日の朝に見てみようかな。何かあるとしても朝からの方が動きやすいでしょ?時透さんの怪我の様子からすると明日明後日の出来事ではないはずだし……いい?」
「それで構わねェよ。何かあるとしても今回はこの里に俺も時透もいんだから慌てんな。指示は俺が出す、お前は先を見る時に怪我しねェようにだけ注意してろ。いいなァ?」
今まで大きな任務がある時に実弥が側に居ることはなかった。
それが今回はこうして側にいてくれており、有事の際は指示を出してくれると言う。
この里で何も起こらないことが何よりもいいことだが、何かあるとしてもその場で対処してくれる柱がいるのは心強い。
しかも実弥は風音のことを誰より理解しているし扱いにも慣れている。
風音の言動に胃を患ったとしても他の柱たちより軽いはず……だ。
「はい!実弥君と時透さんがいてくれれば何も心配いらないね。よかった、今日はゆっくりぐっすり眠れそう!……よし、今日こそは人肌の心地良さを実弥君にも知ってもらわないと!ちょっと待っててね」
憂いのなくなった風音は笑顔で実弥の手を離し、いそいそと後ろを向いて浴衣の襟元に指を掛けた。
突然の話題転換と思い切った風音の行動に、実弥は顔を真っ赤にしながら視線をずらして視界に入らないようにする。
しかし衣擦れの音だけはどうにもならず、見ていないにもかかわらず体に熱が帯びていった。
(ガキかよ!いい歳して情けねェ……それに素っ裸じゃねェんだ、そこまで気にすることでも……)
ポスン
と胸元に軽い衝撃がもたらされた。
何がと確認するまでもなく風音が抱き着いて来た以外に考えられないので、袖のない薄い肌着を身につけている体を反射的に抱き締め返していつもより直に伝わる暖かさにほっと息を着いた。
「あったけェ」
「フフッ、心地良いでしょ?……ねぇ、実弥君の浴衣……」
「あ?あぁ……ちょっと待ってろ」
自分の願いを叶えてくれた風音の願いを叶えるべく、実弥は風音を抱き寄せたまま上半身の浴衣を布団へ落とし、そのままの格好で布団の中へと潜り込んだ。