第16章 里と狼煙
「実弥君からのお許しも出たので早速みてみましょうか。まずは大まかに二ヶ月毎……あれ?」
首を傾げ無一郎の手を離した風音は実弥へと向き直って難しい顔で実弥を見上げる。
何か見えたのだろうが実弥にその光景は送られていないので何が見えたのかは分からない。
「どうしたァ?んな難しい顔して……何が見えたんだよ?」
「んー、私、あまり時透さんとお話ししたことないから判断出来ないんだけど……あの、失礼を承知で聞きます。時透さんはお腹を抱えて笑われたことって今まであった?二ヶ月先の時透さんは剣士の皆さんと無邪気に笑われているようで」
風音の言葉が衝撃的だったのか、実弥は勢いよく無一郎に顔を向けて頭をくしゃりと撫でた。
その実弥の表情が笑顔だったので、風音はつられて笑顔となりキョトンとしたまま実弥に撫でられ続ける無一郎の手を取った。
「時透が笑ったとこなんて見たことねェ!それ、記憶戻ってんじゃねェのかァ?!風音、まだ体調に問題ねぇならそっから二週間遡って一日ずつ見てやってくれ。今日はそこまでだ」
「わぁ!すごい!時透さん!二ヶ月後には失っていた記憶が戻っているみたいですよ!一日ずつ遡っていくのでもう少し待ってて下さいね!」
自分を置き去りに喜びを全開にする二人に無一郎は静かに小さく頷き、風音に握られた手をほんの少しだけ強く握り返した。
その手の力に伴い無一郎の顔が上気しているように見え、風音はふわりと微笑みその頬に手を当てて先を望む。
(一日前も二日前も笑顔……あ、三日前は怒ってる。フフッ、何だかすごく楽しそう)
今も今までも無一郎から感情を色濃く感じたことはなかった。
それが未来の無一郎は柱たちや剣士たちと楽しそうに笑い合い、鬼の話となると嫌悪感を露わにし……時に鬼を挑発して蔑んでは精神を地へと叩き落としていたことを話している。
その光景を無一郎や実弥へと送り込み、本来の無一郎の姿を伝える。
「ふぅ……二週間遡った感じはこんなのです。まだ記憶を取り戻す瞬間には至ってませんが、記憶を取り戻した時透さんはすごく生き生きしています。今の時透さんも素敵ですが笑顔の時透さんも素敵なので、早くお会いしてみたいです」