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涼風の残響【鬼滅の刃】

第16章 里と狼煙


部屋にて風音の帰りを待つ実弥は未だに入口に立ち尽くしたままの無一郎を首を傾げて様子を伺っている。

「いつまでそこに立ってんだァ?こっち来て座れよ」

無表情で無言ながらも無一郎は実弥の誘いを受けいれ、ゆっくり部屋の真ん中へと移動してちょこんと腰を落ち着けた。

だがやはり無言のまま感情の読み取れない瞳を実弥に向け続けている。
ここにやって来た理由は分からないが、記憶障害により感情を表にあまり出さない無一郎が尋ねてきたということは何か理由があるからこそのはず。

嫌がるか?と思いつつも注意深く観察して理由を探ると、思いの外すぐにその理由が判明した。

「怪我してんのかァ?誰かにここに行けって言われたのかよ?」

暫しの沈黙。
いつも問いかければすぐに返答してくる風音と生活を共に送っているので不思議な感覚に陥る。
しかし何かを思い出そうとするように首を捻る無一郎を急かす気になれず待っていると、思い出したのか僅かに目を見開き用を口にした。

「誰か忘れたけど不死川さんのところに傷薬貰いに行けって言われた。でも僕怪我なんてしてたっけ?」

「なるほどなァ、まぁ誰かってここに来てる二人組の剣士だろうよ。手、出せよ。塞がってねェ傷あんじゃねぇか」

無一郎が存在すら忘れていた手首付近にある傷。
もちろん死に至るものではないが放っておけば膿んで酷くなる可能性があるほどに深いものだ。

実弥の視線を辿り発見した傷に首を傾げる無一郎に苦笑いし手を取って、先ほど風音から貰ったいい匂いのする傷薬を指に取り傷に塗り込んでいく。

「これ、風音が……って覚えてねぇか?さっき部屋出てった俺の継子が作った傷薬なんだよ。母ちゃんが薬師だったみてェでなァ。時透が願えば喜んで渡してくれっから願ってみろ」

「風音?さっきの子が風音……そう」

つい先ほど会った風音と言う少女の顔は何となく思い出せたらしい。
すぐに忘れてしまうかもしれないけれど、何度か会って話をしている柱のことは覚えている。

今この瞬間に記憶に刻むことは出来なくても近い将来覚えてもらえればいい。

「お待たせしました!美味しそうなご飯ですよ!」

廊下に膳を重ねて置き襖を元気に開け放ったこの少女のことを。
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