第16章 里と狼煙
「仲直りも何も俺は元々お前に怒ってねェ……って甘えんじゃねェのかよ……いつもの流れなら浴衣ひん剥いて抱き着いてくるとこだろうが」
胸元でよくモゾモゾするヤツだ、また肌に触れて和み出すのだろう。
と実弥は思っていたが今回はどうやら違ったようだ。
モゾモゾしていたのは先ほど製作していた傷薬の入った容器を袂から取り出していたから。
「甘えたい気持ちは山々なんだけどね、先に実弥君の手の怪我の手当てしなきゃ。作りたて新鮮、効き目も匂いも改善された特製傷薬!ほら、匂い嗅いでみて?」
玄弥を殴り続けたことにより手の皮膚が破けてしまっていたところに傷薬を塗られ匂いを嗅ぐように促されてしまった。
出会った当初の傷薬は正に良薬口に苦し。
効き目は抜群なのに形容し難い珍妙で塗ることを躊躇うほどの匂いだったので、それを贈られた柱数人も息を止めて塗り込んでいたくらいだ。
その概念が強かったので躊躇ったものの、確かに容器を開けても手に塗られている間も匂いはしない。
何なら少しいい匂いがするような気さえするので躊躇わずに手の甲を鼻に持っていきスンスン……
「お?なんかいい匂いすんなァ。スっとするような匂いっつうか……目が覚めそうな匂いだ」
「そうでしょ?薬草の種類を変えて香草を煮て抽出した液体を入れてみたの。私は前のままでも慣れてるから問題なかったんだけど、実弥君も他の人も塗るの躊躇う匂いみたいだったから。これならお顔に塗っても匂いで癒されるかなって……よし、手当て完了!ではお邪魔します!」
話してる間も風音の手が止まることはなく、気が付けば丁寧に包帯まで巻かれており言葉通り手当てが完了していた。
そしていつも通り、実弥の浴衣をこそこそとはだけさせて胸元へ飛び込んでいった。
そんな風音を慣れた様子で受け止めて背中をポンポンと撫でてやり、実弥自身も相変わらず天然懐炉のような温かさにほっと息を着く。
しかしこうしていると自分も目の前の少女の肌に触れたいという感情がふつふつと湧き上がり、思わず口走っていた。
「あったけェ……なァ、肌に触れさせてくれねェか?何とかっつう肌着付けたままで構わねぇから」
実弥のこうした願いは風音にとって初めてである。
前に自ら進んで浴衣をはだけさせようとした時は諌められてしまい、それから提案する機会を失っていたのだ。