第16章 里と狼煙
「傷薬と貼り薬。頬が腫れてるのでこれを使って下さい。それにここの温泉は怪我にいい……ように思うからしっかり浸かって癒してね。玄弥さん、私には兄弟がいないから分からないところがあるけれど、やっぱり家族の絆って強いと思う。実弥君が実弥君らしくあるように、玄弥さんも玄弥さんらしくいて下さい」
呆然と風音の言葉を聞いていた玄弥の手に強制的に薬を握らせて頭を下げると、変わらず向こうを向いている実弥に歩み寄った……かと思うと再び玄弥と炭治郎の方へと笑顔で向き直る。
「玄弥さん、炭治郎さん。過去の任務で貴方たちに助けられたからこそ今私は生きています。強く優しい貴方たちを私は尊敬し、感謝しています。私で力になれることがあればいつでも言ってね?必ず力になるから!」
ヒラヒラと手を振ってきた風音に炭治郎が手を振り返すと、今度こそ実弥の元へ歩み寄り、力の抜けた手を握って脱衣場へと移動していった。
「……不死川さんからは君を嫌ってる匂いは全くしなかった。だから怖がることも悲しむこともないよ。今は事情があるみたいだから、落ち着くまで風音に任せよう?お湯を掛けられても不死川さん怒らなかったから、あの子に任せてて大丈夫だと思う」
「あ、あぁ……分かった」
この後、二人は冷えた体を温めるため、体についた傷を癒すために温泉へと身を沈めた。
……禰豆子も混じえて。
ところ変わって風音と実弥が与えてもらっている部屋内。
あれから風音は特に実弥の先ほどの行動に触れることなく、笑顔のまませっせと薬を製作中である。
しつこく咎められたり諌められたりすることを望んではいないものの、こうも何も触れられないと落ち着かない。
暫く薬作りに勤しむ風音を眺めた後、落ち着いた頃合いを見計らって柔らかな頬を軽くつまんだ。
それにより実弥に向き直った風音の顔には変わらず笑みが浮かんでおり、つられて実弥も目元が緩む。
「何も言わねェんだなァ。俺に言いたいことねェのかよ?」
「実弥君の気持ちは知ってるし、言いたいことはさっき言ったもん。ちゃんと私の声に耳を傾けてくれたでしょ?それだけで私はもう十分。こうして笑いかけてくれるだけで幸せだから」