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涼風の残響【鬼滅の刃】

第16章 里と狼煙


声は届いているはずなのに実弥の手が止まることはなく、殴られふらつく玄弥の頬を殴り続けている。

いつもならどんな表情であれ振り返って反応を返してくれるのに、声すら届かない様がいつの日かの鬼となった父親の姿と重なり風音の胸を激しく掻き乱した。

「どうしようどうしよう……このままじゃ溝が深まってしまう……」

混乱状態に陥り涙が溢れた風音の滲む視界の端に積み上げられた桶が写り込み、反射的にその中の一つを掴み取って湯の中に沈め炭治郎が仲裁に入るほどに加熱した二人……実弥の側へ駆け寄った。

「風柱 不死川実弥様!柱が弟子や一般剣士の前で人に手を上げては示しがつきません!止めてください!」

バシャッ

と激しく水がぶつかる音が響いた代わりに人を殴り付ける音がおさまり、辺りはシンと静まり返る。
そして桶が地面に転がり落ちる音と共に実弥の体が強い力で引っ張られ、傷痕が多く残る細い腕に拘束された。

「もう十分です!ぶたれる方もぶつ方も痛いでしょう?争い事は鬼との戦闘だけにして下さい!師範や仲間が傷付くとこを見たくない!」

興奮状態に陥っている実弥であっても涙声で必死に自分の体を押さえ付ける風音を前にすると一気に熱が冷めるというもの。
まだ苛立ちややるせなさが消えることはないが、まずは風音を落ち着けなくてはと体と共に拘束されている腕を抜き取って頭を撫でた。

「悪ィ、もう落ち着いたから離せ。お前の体……冷えちまうだろ。着替えれそうか?」

実弥の体に入っていた力が抜け自分の声に耳を貸してくれたことを確認すると、風音は拘束を解いて小さく頷いた。

「うん、着替えられる。でも少し待ってて、すぐ戻ってくるから!」

涙を拭って早足で脱衣場へと急ぐ風音。
その背中を見送った実弥は玄弥と炭治郎を視界に入れないように向こうを向き、本当にすぐ帰ってきた風音の行動を目で追った。

すると風音は実弥にニコリと微笑み返し、そそくさと玄弥の前へと移動して握っていた手を開き玄弥へと差し出す。
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