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涼風の残響【鬼滅の刃】

第16章 里と狼煙


それまでがたった数秒だったので風音に恥ずかしがる時間などなく、どちらかと言えば今のこの何とも言い難い気まずい空気に動揺している。

(玄弥さんと炭治郎さん!……誰も喋らないし動かない。実弥君は……険しいお顔になってる。どうしよう)

実弥の顔を覗き込むとつり目気味の目が更に吊り上がり、額と頬には血管が浮かび上がっている。
一先ず実弥を落ち着けなくてはと首元に回していた手を実弥の頬に持っていく途中で玄弥の声が響いた。

「兄貴!俺……」

「うるせェ、俺に弟なんかいねぇ。ぶん殴られたくなけりゃとっとと出てけ、二人共なァ!」

一人は鬼殺隊から何がなんでも追い出したいのに鬼を喰って鬼狩りを行っている弟、もう一人は鬼の妹を連れて鬼狩りを行っている剣士。
実弥の怒りを頂点に到達させるには十分な組み合わせである。

そんな二人の様子は実弥に抱きかかえられている風音からは見えないが、炭治郎はともかくとして玄弥が酷く沈んでいるなど容易に想像出来てしまった。

側で支えたいと願っている兄から拒絶されたのだから。

しかし玄弥も傷付いているが実弥も胸を痛めているのは間違いなく、ほんの少しだけ表情に悲しみが燻っている。

「ここで後ろ向いて待っとけ。アイツら追い出して来てやる」

その悲しい感情を瞬時に胸の内にしまい込んだ実弥が風音の体を湯の中に残して立ち上がってしまったので、風音は慌てて腕を掴みここにいるよう引き止めた。

「風音……離せ。このままじゃお前も風呂から出れねェ……」

「兄貴!俺……鬼喰ってるよ!でも……鬼を喰ってでも柱なって兄貴を支えたいんだ!だって俺は」

風音の瞳に映ったのはかつてないほどに悲しみに沈んだ実弥の顔だった。

鬼を喰わせるために自分から遠ざけたのではない。
穏やかに幸せに過ごして欲しいから遠ざけているのに……

そんな言葉が溢れてくるような表情に風音の瞳から涙が浮かんだ瞬間、風音が掴んでいた腕は目の前からなくなり、実弥は既に玄弥の頬を殴り付けていた。

「実弥君!待って!剣士同士で傷付け合う姿なんて見たくない!……もう殴っちゃダメ!」
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