第16章 里と狼煙
この格好というのはいつも実弥と家で共に風呂に入る時と同じ。
胸元から膝までをくるりと大きな手拭いで巻いているので隠さなくては恥ずかしい場所は全て覆い隠されている。
「……お前、こっち側に座っとけ。こっちなら人が入ってきても俺で隠れて見えねェはずだ」
実弥は頭の上に爽籟を携えた風音をひょいと抱え上げて入り口とは反対側に座らせ、それによって寂しい想いをしないようにと楓もそっと抱え上げて自分と風音の間に座らせてやった。
そんな実弥の計らいに風音はもちろん楓もご満悦のようで、顔を見合わせてふわふわと和やかな雰囲気を醸し出した。
「何だァ?別に大したことじゃねェだろ。別に俺は裸見られたってなんとも思わねェわけだし」
「そんなことないよ?誰かを思い遣る気持ちがなければ出来ない事だもん。ありがとう、いつも大切にしてくれて」
風音は近くにいる楓を肩に乗せてから頭の上にいる爽籟が落っこちないよう慎重に実弥の肩に頭を預け、湯の中に沈んでいた実弥の手を取って手のひらを重ね合わせた。
何を思っての行動か分からないが、何となく握った方がいいように感じた実弥は指を絡めて握り締める。
「改まってなんだよ。それにしても……ちっせぇ手。よくこんな手で日輪刀握って鬼の頸斬れるなァ……途中で疲れることねェのか?」
「実弥君の手は大きくて安心感があるね。私は……途中で疲れることあるけど、鞄に常備してる包帯で固定すれば問題なく戦えるよ。でも私は予知する力があるから、他の剣士の人よりもまだ負担は少ないんじゃないかな?」
握ってくれた実弥の手の温かさに顔を綻ばせながら自身の予知能力について考えを巡らせた。
実弥と出会って暫く経過した頃から杏寿郎の汽車の任務くらいまで、勝手に流れ込んでくる先の光景に翻弄されては体に傷を作っていた。
今となっては余程のことがない限り感覚を共有してしまうことはないし、見えた先を少人数であれば望む相手に送ることが出来るようになっている。
それもこれも実弥が根気強く風音に寄り添い続けてくれて、柱と言う心強い人たちの協力を取り付けてくれたから。
周りから見ると言葉尻や視線はキツく映るらしいが、風音は実弥の不器用ながらも優しい心根が大好きだ。