第15章 豆撒きと刀
「そうか……風音の父ちゃんはお前の子供と同じように鬼にされた。その父親だった鬼を娘のアイツがケジメをつけるんだって言って……自分の手で頸を落とした。お前が暴言吐き散らして殴りつけた女はなァ、父親の頸斬って気が狂うほどに泣き崩れた女だったんだよ。自分だけが悲劇の真っ只中にいるなんて思ってんな」
「そんな……功介がうちの子と同じように…… 風音ちゃん!すまない!もう一度顔を見せてくれ!頼む!」
実弥に投げ捨てられてしまって今は姿の見えない風音を男が呼ぶと、驚きながらも実弥の様子を伺うように生垣から顔だけ覗かせた。
「私……呼ばれましたか?師範、そっちに行ってもいいですか?」
何が何だか分からない状況だが呼ばれたからには顔を出さなくては……と顔だけのぞかせ続けている風音を手招きして呼び戻した。
すると少し迷ったように身を縮こませながら男と向き合う実弥の隣りにぴたりと寄り添い、今は憎しみのこもっていない瞳で自分を見つめる男に対して首を傾げて見つめ返す。
「えっと……どうされましたか?私は……その……」
「君は功介の娘だったんだね。俺は功介の友人なんだ……殴って……心無い言葉をぶつけてすまない。どう詫びればいいのか……」
殴りつけた手で赤く腫れた頬に触れると怯えられるのでは……と思ったが、手を近付けても頬に触れても怯えた様子を一切見せず、キョトンとして大人しく撫でられ続ける様に苦笑いが零れた。
まぁそれを良しとしない実弥によって手は叩き落とされてしまったが、何となく事情を察した男は気分を害することなく、その手を娘の形見である着物へと移動させた。
そして男は固まり続ける風音に笑みを零し、実弥は溜め息を零して頭をくしゃりと撫でる。
「固まっちまったァ……風音、コイツはお前の父ちゃんの友達なんだと。何か言葉返してやれ……驚く気持ちは分からんでもねェけど」
「あ……は、はい!先ほどまでのことはお気になさらないで下さい。私が……貴方の大切なお子さんを手にかけたのは事実ですし……こちらこそ生意気なこと言ってごめんなさい。えっと……お父さんのお友達……突然のことで上手く頭が回らない……どうしよう」