第15章 豆撒きと刀
自分の父親に友人がいたことは嬉しく喜びたい。
だが目の前にいるその父親の友人の子供をついさっき手にかけた風音は喜ぶに喜べないでいた。
どうすればいいのか分からず実弥を見上げるとことの外優しい笑顔を向けてくれていたので、張り詰めていた糸がプツンと切れて翡翠石のような瞳から涙が流れ落ちてしまった。
「あぁ、あぁ……泣くことねェだろォ。思ったこと素直に言ってやりゃあいい。ほら、泣いたままでいいから伝えろ」
静かに涙を零し続ける風音の背を押して男の方へ一歩前に進ませてやると、涙を手で拭って男を見上げた。
「私以外に……剣士の顔じゃないお父さんの顔を知ってくれている人が……いてくれたことがすごく嬉しいです。嫌でなければ……今度お父さんのお話を聞かせてほしいです……」
「もちろんだ。被害者の遺族に償いをしたら君に会いに行く。必ず会いに行くから待っていてくれ……そうか、功介も君と同じく人を守る仕事をしていたんだね。俺が言うのも可笑しいかもしれないが、功介の分も生きて幸せになってほしいと……心から思う」
先ほどの子供が父親のことを最期の最期まで心配する気持ちが分かった。
底知れず穏やかで優しいからだ。
親子二人で慎ましやかに幸せをかみしめて生きていたのに、突然その幸せが奪われてしまった。
鬼となってしまった我が子に最初は絶望し心の中で葛藤したことだろう。
その果てに選んだ道はあまりにも悲しく許されない道だったが、そこから這い上がって生き続けようとしてくれる男性に風音はようやく笑みを向けた。
「待っています。生き続けるとお約束します。でも……私は今も十分幸せなんですよ。こうしてお父さんのお友達とお会いできて、その縁を紡いでくれた実弥君が側にいてくれるから。とても幸せなので、これ以上幸せになったら私、きっと死んでしまうと思えるくらい幸せです」
隣りで顔を真っ赤にしている青年の惚気を言い出した風音に男性は吹き出した後、実弥から住所を聞いて娘の着物を大切そうに抱えながらその場を後にした。
「師範……私の日輪刀、折れちゃいました。鋼鐵塚さんに……何て言えばいいですか?」
「……あ"ぁ"、正直に言うしかねェだろ。ちょうど俺の刀も調整が必要だから着いてってやる。刀鍛冶の里にな」
風音は落ち込みながら家路についたようである。