第15章 豆撒きと刀
負の感情を全て請け負うと宣言してしまった風音に実弥はゆっくりと歩み寄り、折れて地面に転がっていた若葉色の日輪刀を拾い上げて風音へと手渡した。
「もう十分だ。風音は向こうでこれを鞘の中にしまっとけ。いいな?」
「待て!まだ話は済んでない!俺は……」
「まだ言いてぇことあるなら俺が聞いてやる。俺はコイツの師範なんでなァ、恨み言吐く相手には不足ねぇだろ。風音、お前は向こうに行ってろ。これは命令だ」
今にも風音に掴みかかろうとしている男を力で制する実弥の眼光は鋭く、命令を無視すればそれこそ力技で放り出されかねない。
ただ最後に一言……男性に言葉を残す。
「私は鬼殺隊剣士 階級甲 夙の呼吸を使う柊木風音と申します。どうか忘れないで……貴方のお子さんの仇の名前です」
「柊木…… 風音?聞いたことある。お前は……」
「風音!いい加減にしとけェ!俺の命令が聞こえなかったかァ?!」
身分や名前まで全てさらけ出してしまった風音を実弥は片腕で掴み上げてポイと向こうへ投げ捨ててしまった。
落ちる音と共に小さな悲鳴が聞こえたような気がしたが、それは聞こえないふりをして男に向き直る。
「アイツ殺すならまず俺を殺しに来やがれ。だが俺は簡単に殺されるつもりなんてねェからなァ……アイツは殺させねェ、アイツは」
「ま、待ってくれ!あの子は柊木功介の娘じゃないのか?!確か外国の血が混じった女性と結婚して……金色の髪と緑色の瞳をもつ娘が産まれたって本人から……功介はどうなったんだ?!」
思いもしなかった言葉に実弥が固まった。
まさかこんな場所で風音の両親を知る人物と鉢会うなど誰も想像出来なかっただろう。
「お前…… 風音の父ちゃんと知り合いか?」
「あ、あぁ。学生時代からの友人だった。手紙のやり取りをしていたんだが……十年ほど前から連絡が途絶えてしまって……唯一の友だったんだ」
怒りや憎しみの抜け落ちた男の話を風音に聞かせてやりたいと思ったが、今から男に話す内容は風音に聞かせたくなかった。
呼び戻すか戻さないか……迷った末に実弥はそのまま話を続ける。