第15章 豆撒きと刀
父親を想い涙を流した子供は最期に笑みを残し、やがて塵となって風に流れていった。
それを笑顔で見送った風音の頬に突如として鈍い痛みが走って体が吹き飛び、握っていた日輪刀が手から離れてしまう。
ここまでは先を見ていたので何をされたのかは理解している。
ただ……これからは見ることをやめたので何が起こるかは分からない状況だ。
「これで……この刀で何人の生き甲斐を奪ってきた!こんなのも……」
手から離れた日輪刀は悲しみ怒り狂う男の手に渡ってしまった。
地面に刃を当てて足で踏みつける様を見れば男が何をしようとしているのかなど一目瞭然だ。
「数え切れないくらいだよ!貴方は何も思わなかったの?人が鬼に喰われる様を見て……我が子が人を襲う所を見て何も思わなかった?もがき苦しむ人を喰らう我が子を見て!……やめて!それがなければ人を守れない!」
パキン……
音が聞こえたということは日輪刀が無残な様になってしまったことを意味している。
視界の端に映る実弥は今にも飛び出しそうなほどに怒っており、どうにかここで風音がおさめなければ今度は男が無残な姿になると想像に容易い。
「これで……お前は奪えない。俺のようなヤツを生み出さなくて……」
そうならない為に風音は男に歩み寄って、子供が身に付けていた着物を目の前に翳した。
「あの子の最期の言葉が聞こえなかった?最期まで貴方の心配をしていましたよ。自分が悪いからお父さんを怒らないであげてって。きっとあの子は貴方にとても大切にされていたのかと……思います。でもね、他の人にも貴方と同じように心から大切に想っている人がいます。それを奪うことは……許される行為ではありません」
男から翳した着物に視線を落とす。
その着物には落としきれなかった血痕と思しきシミが多数付着しており、多くの人を襲い腹におさめたのだと分かるものだった。
こんなシミが出来てしまう前にどうにか対処出来ていれば、今のようなやるせない現実を見なくてすんだのではと思うと風音の胸が軋むような痛みを襲った。
「今はとても前に進める状態ではないかもしれません。でも……どうかあの子や犠牲者の分も生き抜いて下さい。あの子の分も長く生き、望まず命を落とした人たちへ懺悔しながら……生きて下さい。恨み辛みは私が全て引き受けますので」