第15章 豆撒きと刀
「やめてくれ!殺さないでくれ!その子は俺の子供なんだ!ただ腹を空かせてるから……それを満たしてるだけだ!俺たち人間と変わらないだろ!」
(あ"ぁ"……さっき話してたことそのまんま起こってんじゃねェか。なるほどなァ、それで俺に手ぇ出すなっつったんだ)
曲がり角から様子を伺うと、鬼となった子供を庇うように父親らしき男が風音の前に両腕を広げて立ち塞がっていた。
庇う対象が鬼でなければ親として愛情の溢れた行動だが……今はとても滑稽に映る。
「その子は何人の人を喰べましたか?その子は何人の未来を奪って幾つの幸せを奪いましたか?これから貴方はその子にどれほどの業を……背負わせるつもりですか?」
「うるさい!お前みたいな小娘に親の気持ちが分かってたまるか!俺にはもうこの子しかいない!この子がいなくなったら……生きていけない!」
親の気持ちは子供を授かっていない風音や実弥には分からない……分からないが、親をこの手に掛けなくてはいけなかった途轍もない悲しみや苦しみは知っている。
似て非なるものかもしれないけれど、苦しみはどちらも計り知れないものに違いない。
「私は鬼狩りです。人に害を成す鬼を討伐することが私の役目です。それが子供であっても例外にはなり得ません。貴方のお子さんだけ見逃すなんてしない……夙の呼吸 伍ノ型 天つ風」
男が立ち塞がっていても跳躍する技を得意とする夙の呼吸を扱う風音にとって障害にはならない。
頭の先から爪先まで絶望に染めた男に眉根を寄せながらも鬼の頭上から技を放って……頸を一瞬で斬り落とした。
「人殺し!一生恨んでやる!あぁああ!殺してやる!」
恨み言を吐く男には目もくれず、風音は鬼となってしまった悲しい子供の頬に手を当ててふわりとほほ笑みかける。
すると子供の瞳から幾筋もの涙が頬を伝い、風音の暖かな手を濡らしていった。
「お姉……ちゃん、お父さんを……怒らないであげて。私が……悪いから」
「怒らないよ。貴女のことが何よりも愛しく守りたい存在だったからって分かってるから。もうゆっくり休んで大丈夫だよ、優しい貴女が私も大好き。生まれ変わったら……お友達になってね」