第15章 豆撒きと刀
辿り着いた先は楓が言っていた通り人里。
村と言うよりもそれなりに栄えているので村よりも遥かに人が多く住んでおり、鬼を倒し損ねてしまえば被害が広がる可能性が高い場所だ。
「この辺りに鬼が……どこも寝静まってて物音がしないから探しやすいですね。と言っても天元さんや善逸さんみたいに耳が良くないので私の耳は頼りになりませんけど」
「頼りになんねェなら使えねェじゃねェかァ……馬鹿言ってねぇで予知で見た場所まで行くぞ。場所、分かってんだろ?」
まだ身体的・心的疲労が抜け切っていないからか先を見せたくない理由があるからなのか、実弥は先の光景を見せてもらっていない。
気配で何となく鬼がいる場所を感じ取れる程度なので、風音ほど正確な場所を掴めていない状況だ。
ここでのんびりしている暇はないと風音を促すと、風音は震わせた手を握りしめて小さく頷いた。
「はい、私が先導・戦闘を行います。師範は少し離れた場所で待機していて下さい。私だけで鬼の対処は可能ですので」
明らかにいつもと違う張り詰めたような怯えたような雰囲気を出している風音の頭をぽんと撫で、実弥は目が合うように屈んで顔を覗き込む。
「鬼の頸斬んのは何も間違っちゃいねェ。怯えんな、俺は何が起こっても風音の味方でいてやる。思う通りにやってみろ」
師範から弟子である風音に向けた言葉は何の迷いもなく、真剣な瞳にも嘘偽りを微塵も映していなかった。
それが風音の陰っていた気持ちに光を灯し、自然と震えが止まって心の中が暖かなもので満たされた。
「はい!実はその角を曲がったところに鬼がいるんです!跳躍して上から奇襲します!」
思っていたよりも近くに鬼がいたらしい……
その鬼を討つべく日輪刀の柄に手を当てた風音から距離を取って曲がり角ギリギリまで移動する。
「夙の呼吸 肆ノ型 飄風・高嶺颪」
高く舞い上がった風音は設置されている生垣を軽々と飛び越えて実弥の視界からすぐに消えていった。
その後の姿を見届けなくてはと風音を追うように体を動かしたところで鬼と思われる悲鳴と、人と思われる悲痛な叫び声が実弥の鼓膜を刺激した。