第15章 豆撒きと刀
人が深刻で真剣な話をしていようと鬼がそれを配慮してくれるわけもない。
風音は継子となることの責任の重さを存分に胸に刻みながら、今は気持ちを切り替えて実弥と共に任務地へと急いでいる。
「楓ちゃんが持ってきてくれた任務ってことは私の任務だよね?師範が付き添ってくれるのは鬼舞辻の動向を警戒してのこと?」
「ハイ!警備後ナノデオ疲レカト存ジマスガ、万ガ一ヲ想定シタ本部ノ判断デス」
まだ数日前に実弥が本部にそうするよう提言したことが既に今日実行された。
風音としては実弥が共に来てくれることは何より心強く有難いが、仕方がないとは言え豆撒き後に警備をこなした実弥に付き合ってもらうのはやはり罪悪感が湧いてくるもの……
風音の速度に合わせて隣りを走ってくれている実弥を伺うように視線を動かそうとすると、その視線が実弥に届く前に頭をくしゃりと撫でられた。
「俺を始めとした柱全員が決めた決定事項だ。お前は余計なこと考えず今から倒す鬼のこと考えてろ。どんな鬼か見えてんだろ?」
長い月日を共に過ごしてきただけあって風音の考えることはお見通しのようである。
剣術や体術、技の精度のみならず最近では風音の感情を機微に感じ取ってしまう実弥に頭が上がらない。
今の状況に苦笑いを零し実弥を通して先を見せてもらうと…… 風音の表情が僅かに動揺の色を示した。
何を見たのかと問い掛ける前に風音が小さく息をついて先に口を開く。
「鬼自体は特に問題なく倒せる強さに過ぎません。倒した後は私が対処するので師範は……見守っていてください。この任務についてはもう先を見ません。ズルはしたくないので」
「……俺の血管が破裂するまでは我慢しててやるよ。何があんのか知らねェが自分の身守ることも忘れんな。分かったかァ?」
これから間違いなく起こる出来事に心臓が嫌な音を立てるが、実弥がそばに居てくれれば心が壊れることはない。
存在自体が心強い実弥に頷いて返すと、更に速度を上げて夜道を駆けていく。
誰かの命が奪われる前に現場に辿り着けるようにと。