第15章 豆撒きと刀
「うん……人の感情って難しいね。実弥君が万が一鬼になってしまったとして、躊躇わずに頸を斬る自信が私にはない。こんなんだから中々強くなれないんだろうなぁ」
「いや、躊躇わず斬れるヤツのが少ねぇだろ。だが殺されるわけにもいかねぇし、そいつに人を殺させたくないから斬るしか残された道がないんだ。安心しろ、お前が鬼になったら師範である俺が直々に手を下して……俺もすぐにそっちに行ってやるから」
傍から聞けば物騒な話に違いないが、鬼殺隊に所属している者であれば存外普通に繰り広げられている話だ。
特に継子を持つ柱は継子に直接そうした話をしなくても皆考えていることは同じようなものだろう。
しかし風音はこうした話に免疫がないので、胸元にうずめた顔を上げて悲しく揺らした瞳を実弥に向けた。
「どうして?実弥君は死なないでよ。鬼になったら鬼にされてしまった私の責任でしょ?実弥君はたくさん生きてたくさんの幸せに囲まれて生きるべきだよ」
「自分の継子が鬼になっちまったらそうもいかねェだろ。人の命を奪ってたら尚更だ。鬼を滅する剣士たちの上に立つ柱が鬼作ってその鬼が人殺しちまったら示しつかねぇからなァ」
そうした取り決めが鬼殺隊内であるのか風音は分からない。
怖くて聞けないし……聞いてしまえばそれが現実になりそうで聞きたくなかった。
「示し……実弥君は後悔してない?私は鬼に狙われてるから……他の剣士より鬼にされてしまう可能性が高い……放り出したくならないの?」
放り出されてしまえば泣くくせに……と思いながらも、今にも泣きそうな風音にそんな言葉を吐くことは出来なかった。
「お前を弟子にした時点で覚悟決めてんだ。今更中途半端に放り出すことはしねぇし……そもそも手放すつもりはない。だから俺から逃げ出そうとすんなよ?逃げ出したら追い回して連れ帰るからなァ」
実弥の負担になるならば飛び出そうかと考えていたのだろう……ぴくりと体を震わせた風音に溜め息を零し頬をつねってやろうと手を動かしたところで、開け放っていた縁側から一羽の鴉が飛び込んできた。
「任務デス!風音サン、不死川様、出陣ノ準備ヲ整エテ下サイ!ココカラ程近イ人里デ鬼ガ確認サレマシタ」