第15章 豆撒きと刀
剣士たちや柱たちの疲労が癒えていない同日の夜中。
静まり返った不死川邸の寝室で一人目を覚ました。
「……実弥君。警備に行ったのかな?」
いつも隣りで寝てくれている実弥の姿がどこにも見当たらず物寂しい気持ちになりながら、風音は布団の中で手をゴソゴソと動かし握り締めたままだった実弥の組紐を目の前に翳した。
「あれからどうなったんだろ?思わず握り取っちゃったけど、実弥君は脱落……してしまったのかな?」
自分も紐を取られたからとは言え、能力の向上目的で柱側に組みされた自分が同じ仲間であるはずの格上の柱の紐を取るなど恐れ多い行為である。
今更ながらにとんでもない事をしでかしたと自覚した風音は布団から飛び起き、急いで台所へと足を向けた。
「やってしまった……実弥君が帰ってくる前におはぎ……は時間がかかるから、何か軽く食べられるものでも。作り置いてたお漬物とお味噌汁くらいならすぐ出来る」
こんなところで泣きべそをかくはめになるなど想像すらしていなかったが、そんなことを深く考える余裕など今の風音には皆無である。
手早く鍋の中に水を入れて火にかけ具材を一口大に切っては中へと流し込み、具材に火が通るのをひたすら待つ。
その間に茶の準備と漬物の準備を終わらせ、しばらくして味噌汁も完成させた。
「どうにか……間に合った。次はお風呂を」
「何やってんだァ?お前、今日非番だったろ?」
背後から声が聞こえ風音の体が飛び上がった。
玄関が開く音すらしなかったので待ち望んでいた人物であれ、いきなり声が聞こえれば驚くのも無理はないだろう。
「お!お帰りなさい!今のところは非番だけど……その、実弥君が警備から帰ってくるまでにお腹に入れれるものを作って、お風呂を溜めておこうかなって。豆撒きの時のお詫びも兼ねまして……」
驚き振り返った風音の表情は反応と同じく驚きで満たされていたのに、お詫びだのなんだのに至る頃にはシュンと沈んでしまった。
なぜ落ち込んだのか何となく察した実弥はパチンと軽く風音の額を指で弾き顔を上げるように促す。
するとやはりシュンとしたまま風音が顔を上げた。