第3章 能力と剣士
それは既に実弥の知るところだ。
苦肉の策で頻繁に染めていたであろう金色の髪。
頻繁に染めていたなら染め粉代も馬鹿にはならず、食費をさぞかし圧迫していただろう。
幼い子供に一人で生活を強制させたうえに排他的な村人に激しい憤りを感じるが、それを今さらけ出したところで過去は変わらないし、何より風音に村人のことを思い出させる方が何故だか実弥の苛立ちを高まらせたので、敢えて触れないことにした。
「知ってる。お前が寝てる時に染めきれてねぇ一房が見えたんでなァ。今の話を聞く限り、俺ん家で生活すんなら毒を飲む必要はねェってことでいいな?髪を染める必要も飯代も必要ねぇだろ。今後一切毒なんて……」
「いえ!髪を染める必要はないかもしれないけど、食費は出させてください!解毒剤は本当にいいお値段で売れるんですよ?染め粉代が浮くとなれば」
ガシッ
と風音の頭が強い力で鷲掴みにされた。
誰に……と考えなくても部屋の中には自分と実弥しか……頬にまで血管を侵食させ怒りを露わにする実弥しかいないのだから。
「俺は毒を飲むなって言ってんだァ、今までの話の流れでそれくらい分かってるよなァ?!薬作れんだ、頭は俺より遥かにいいと思ってたが思い違いかァ?!テメェの食費が俺の生活を圧迫するなら家に住まわせるわけねェだろ!そのうち働くなり鬼殺隊に入るなりして稼げるようになってから渡したきゃ渡せ、毒飲んで作った金なんぞ受け取らねぇぞ!」
目が血走っている。
額や頬の血管もぴくぴくと痙攣しているので、怒っていると言うより激怒に近いだろう。
それにもかかわらず不思議と頭を掴んでいる手の力は優しく……そして僅かに震えていた。
自分も何故かは分からないが実弥に懐いており、実弥もそれを嫌がらずこうして自分のためを思って怒り……手を震わせてくれている。
そんな不器用ながらも優しい実弥の震える手を握りしめた。
「分かりました。毒は飲まないと約束します。食費は……お金が出来た時に必ずお渡しするので受け取ってください。私……まだ実弥さん以外に力の話をするのは怖いけど、全部実弥さんに話してから柱の方に自分から話したい。話して……この能力が役に立てるなら、人のために戦う人たちの力になりたいし、私みたいに悲しい思いをする人を少なく……出来たらいいなって思います」