第3章 能力と剣士
これが実弥の考える懸念事項だ。
鬼を倒すという志を元に集まった組織が鬼殺隊である。
しかし同じ志を持つものが集まった組織と言えど、それぞれ考え方や感じ方、物事の捉え方は違う。
実弥が信頼を置く柱たちにさえ自身の能力を打ち明けることに尻込みするようでは、能力を鬼殺隊で存分に発揮するなど出来るはずもない。
「それは……」
「それにお前、先を見る力使って寝ちまったんじゃねェのか?胡蝶に診てもらったが、パッと見だと寝てるだけって言ってた。それとも何か?遅効性の毒か睡眠薬でも飲んでたって言いやがるのかァ?」
先ほどまでとは打って変わった実弥の鋭い視線に風音の背中を冷や汗が伝い、否が応でも緊張感が増していく。
軽はずみに嘘を言っては、これから先何を言っても信じて貰えなくなるだろうと察した風音は、ようやく通常の働きをしだした頭を全力で回転させ口を開いた。
「普段、解毒剤を作るために服毒することはありますが、今日は体に毒も睡眠薬も入れていません。実弥さんの想像通り、先を見たから長い睡眠に入ったと思われます。心身共に疲れていたのに加え、力を使ったのが十年ぶりくらいだったので……体がついていかなかったのかと……」
実弥は言葉を失った。
能力云々よりも栄養の全く足りていないやせ細っている体に毒を入れるなど、実弥からすれば自殺行動としか映らなかったからだ。
「ちょっと待て……力の話を聞く前にお前の行動を改めさせる必要がある。飯食ってますみてぇに軽く服毒してるなんて言ってんじゃねェ。はァ……何でわざわざ弱っちぃ体に毒を入れてまで解毒剤を作ってたのか、これから俺ん家で生活する中で毒を飲む必要はあんのかを答えろ」
正直に答えたばかりに呆れられ……いや、心做しか怒られてしまったが、見放されたわけではなかったので、風音は心の中でホッと息をついて実弥の質問に1つずつ答えていく。
「解毒剤を作り始めたのは生活費を稼ぐためでした。こっそり村の外にお薬を売りに行っていたんだけど、解毒剤が他のお薬より高く売れたから。食費に加え染め粉……あ、実弥さん。私の髪、実は黒じゃないんです。隔世遺伝?って言うみたいなんだけど、実は金色だから染めないと村で色々不都合が生じる恐れがあったので……」