第15章 豆撒きと刀
(な、泣きそうになってる?!皆に迷惑かけるって……あの鬼が関係してんのか?)
数日前にあの鬼と風音の間でどのような遣り取りがあったのか玄弥は知らない。
ただ状況から見て風音があの鬼……鬼舞辻無惨に目を付けられているのかもしれないと漠然と思っていただけだ。
そして先ほど言っていた出された課題や迷惑を掛けるだの何だのにまで考えを巡らそうとしたが、玄弥にそんな余裕は全くなくなってしまう。
実弥に日々稽古を付けてもらい共に鍛錬をし、時には共に任務に赴いていた風音は想像以上に強く……そして好戦的だからだ。
「この紐は渡せない……夙の呼吸 壱ノ型 業の風」
こんな細腕の華奢な少女のどこにこれほどの力が隠されているのかと心の中で焦りながら、放たれた技を木刀で受け止めた。
その時に見えたのはつい今し方までなかったはずの右腕に発現した若葉色の鮮やかな痣。
何だ……と思った時には木刀は背後へと吹き飛ばされており、腰に括り付けていた袋が地面に落ちていた。
これにより勝負は風音の勝ち。
勝ちを掴み取って晴れやかな笑顔を玄弥は想像していたのが、瞳に涙を浮かべた笑顔は少し物悲しく映った。
そんな風音に呆然としていると物悲しい表情のまま手を差し伸べられたので、思わずその手を握り返して……顔を真っ赤にする。
「フフッ、玄弥さんは恥ずかしがり屋さんだね。試合、ありがとうございました。私もまだまだ強くならないとなので、同じ鬼殺隊の剣士として頑張ろう?私にもまだ見えないけど……きっと実弥君と笑顔で話せる未来が来るから」
小さくも暖かな手に握られ恥ずかしさはあるものの、優しい声音や手から伝わる暖かさに自分の兄に拒絶された際に痛んだ胸が癒されるように思えた。
(兄貴も……この声と手に助けられてんのかな……)
そんなことを思いながらこっそり実弥を盗み見てみると、やはり風音を瞳に映す実弥の表情は穏やかで大切で仕方ないのだと伝わった。
まだ痛みは完全になくならないが、兄が一人ぼっちで戦っていないのだと思うと胸のつかえがとれ、ようやく玄弥の顔が笑みで満たされる。
「うん……兄貴に認められるように悲鳴嶼さんのところで頑張る。ごめん、俺の事情に付き合わせて。でも……その、ありがとう」