第15章 豆撒きと刀
それぞれの想いを抱きながら試合を繰り広げる二人の様子を、その二人からとてつもなく慕われている実弥は苦虫を噛み潰したような表情で眺めていた。
「風音は風音でまた勝手に溜め込んじまってるし、玄弥は玄弥で鬼喰ってまで柱になんてなろうとしてやがるし……何で俺の周りはこうも珍妙なヤツばっか集まってくんだよ」
「鬼を喰っているのか?不死川の弟は」
「俺に弟なんかいやしねェよ。って伊黒、お前もここに来てたのか」
独り言に返事が返ってきたにも関わらず、こういった状況に慣れているのか突然の小芭内の登場に実弥は驚くことなく会話を続ける。
「あぁ、アイツらがぞろぞろと森から出て行くのが見えたのでな。様子を見に来たら……なぜ柊木と不死川玄弥が見せ物みたいに戦っている?」
弟などいないと言われた小芭内はそれに深く踏み込むことなくさらりと受け流し、なぜか全力でサシで戦っている二人に視線を戻す……しかも風音に関しては涙を浮かべているので小芭内の脳内は疑問符だらけである。
先ほどの風音の言葉を聞いていない小芭内の疑問を解消すべく、実弥も二人に視線を戻して溜め息を零した。
「柱目指してる玄弥に風音が戦いを挑まれたんだと。で、風音は塵屑野郎に狙われて任務一人で行けなくなったろ?俺が出した課題をここでこなせなけりゃ、自分に付き添ってくれる柱に申し訳立たねぇって泣きそうになっちまってんだ」
「何とも様々な感情が入り乱れているな。柱になりたい不死川玄弥と、柱になる資格を持ちながら柱になれない柊木か……」
複雑な感情を互いにぶつけながら戦う二人は多くの一般剣士と実弥、小芭内に見守られている。
しかしその戦いも終わりが見えてきた。
「まァ……そうなるわなァ。風音は柱になる基準を満たしてんだ。先を見なくたって下の階級の剣士に負けるわけねェんだ」
二人の試合を見守っていた者たちの瞳に映ったのは、首元の若葉色の紐を守りきった風音の姿と、腰に携えていた袋を地面に叩き落とされた玄弥の姿だった。