第15章 豆撒きと刀
(勝手にやってろ……って言ってやりてェ。クソ、自分だけじゃなくって鬼喰ってる玄弥の成長も見ろってことかよ……)
誰かに対して苛立ちを露わにしていくら近寄り難い空気を実弥が纏わせても、風音は一切怯えないし怯んでくれない。
自分に怯えて身を縮こませる姿など見たいと思わないが、実弥としてはこんな時に柔らかな笑顔を向けられては勢いが削がれてしまう。
それに以前にも同じようなことで八つ当たりをして吹き飛ばしかけたことがあるので、同じ轍を踏むなどあってはならないと深呼吸してどうにか気持ちを落ち着けた。
「今回だけだ……それでいいかよ?」
「もちろんです。ありがとうございます、師範。では行ってきます」
柔らかな風音の笑顔の次に実弥の視界の端に映りこんだのは玄弥の悲しげな表情だった。
風音に握られていた手が離れたことも重なり胸の内が僅かに痛み、無意識に温かさの離れた手を握り締めていた。
「さて、玄弥さん。師範から試合続行の許可を頂きました。立って下さい。先ほどと同様、私は全力で向かうので玄弥さんも全力で向かってきてください。……行きます!」
合図が入ったかと思えば、噂通りの脚力でまだ準備の整っていない玄弥へと風音が目前まで迫り寄ってきた。
「夙の呼吸 肆ノ型 飄風・高嶺颪」
かと思うと玄弥が咄嗟に木刀を横に薙ぐと予知を使って確信を得た風音は、地面を踏み締めて玄弥の頭上高く飛び上がり技を放つ。
「簡単に……負けられねぇんだよ!」
「私だって簡単に負けられない!私はこれから皆さんにたくさん迷惑をかける!せめて……ここで出された課題をこなさなきゃ示しがつかない!」
もうすぐ天元が柱を退くというのに、甲で柱となる条件を満たしていても柱になれない。
生まれ持った能力が鬼殺隊に身を置く上で大きく役立っている反面、この能力のお陰で柱に負担を掛けてしまう。
ここまで実弥に育ててもらったのに鬼に目をつけられたばかりに任務すら一人でまともに赴くことが出来なくなってしまった。
「夙の呼吸 弐ノ型 吹花擘柳」
風の呼吸 肆ノ型とよく似た技を放つ風音が瞳に涙を浮かべる姿を目にして、玄弥の脳内に数日前の出来事が巡った。