第15章 豆撒きと刀
そうして幕から少し離れた場所で向かい合い互いに木刀を構えると、玄弥がぽつりぽつりと言葉を紡いだ。
「俺、悲鳴嶼さんに面倒みてもらってんだ。けど、才能がないって継子にはなってねぇ。だから兄貴の継子とどれくらい差があるのか知りたい……柱になって兄貴を支えたいからお前を指標にさせてくれ」
地面に落とした実弥とよく似た瞳は酷く落ち込んでいるように見え、風音は首を傾げる。
才能云々は風音には分からないが、前に共闘させて貰った時の様子を見れば十分に強いのだと感じていたから。
「才能……ですか。私に才能があるかと聞かれれば非常に微妙なところだけど、私で玄弥さんの目標のお役に立てるなら全力で向かわせていただきます!玄弥さんも全力でお相手ください……夙の呼吸 壱ノ型 業の風」
自分は鬼側。
鬼は剣士の準備が整うのを待ってはくれないので、玄弥が風音の言葉に返事をする前に一気に間合いを詰めて腰の袋目掛けて横に薙ぐ。
するとやはり玄弥は軽々とそれを躱し風音に向かって木刀を振り下ろした。
(これだけの反応速度で才能がないの?反射神経で言えば私より優れてそうだけど……あとは技の威力がどれくらいか警戒しなきゃ)
「夙の呼吸 参ノ型 凄風・白南風」
左右から何度技を放っても玄弥は技を放って受け流すことはせず、飛んで避けたりただ木刀で弾き返してくるだけ。
初めは自分が女剣士だから技を放つのを躊躇っているのかとも思ったが、玄弥の表情は初めから一貫して真剣そのもので手を抜いている感じはしない。
何か理由があるのではと風音は一度玄弥から距離を取って全身を瞳に映す。
すると玄弥はやはり技を放たずに間合いを詰めてきては心からの叫びを口にした。
「俺は日輪刀に色が付かなかった!呼吸の技を使えねぇんだよ!お前みたいに技も使えねぇ、先を見る能力なんて持ってるわけもねぇ!ただ鬼を喰って体強化して戦うしか出来ねぇんだ!それでも……俺は兄貴の側で柱として支えたい!」
突然の言葉に風音は驚き目を見開いた。
技を放てないや先を見る能力がないなどの告白よりも、玄弥の戦闘方法に驚いたのだ。