第15章 豆撒きと刀
実弥や天元に風音の現状が届いてしまっているのならば、実弥の言った通りしのぶに届いている可能性は非常に高い。
しかし今回は不可抗力と言えば不可抗力だ。
力量不足は否めないかも知れないが故意に付けたものではないので……とどうにか自分の中で言い聞かせて呆れ顔の実弥の手をギュッと握った。
「手当てするために駆け付けてくれてありがとうございます。柱である師範の手を煩わせるなんて、私はまだまだ鍛錬が足りませんね。これが終わったら引き続きお稽古と鍛錬をよろしくお願いします」
怪我をして痛みも伴っているはずなのに穏やかに笑って見せた風音に苦笑いで頷き返し、実弥は握られた手を引っ張って木刀の山の前へと促した。
「俺もそろそろささくれ立ってきたから新しいのに替えとく。風音、別れてから何人の袋叩き落とした?」
新しい木刀を選び取る実弥に習って木刀を手に取った風音は羽織の袂に手を入れて先ほど奪い取った袋を翳す。
「まだ二つなんです。しかも不意打ちみたいな感じで取ったのでちゃんとした戦闘はまだしてません」
「お前んとこ行くヤツ意外と少ねェんだな。取り敢えずお前は情報を俺たちに送ることを優先するとして……少なくとも三十人の剣士叩きのめせ。それより少なけりゃ稽古と鍛錬増やすのに加え、一ヶ月一緒に寝てやんねェ」
今日一番の悲壮な表情。
しかし実弥は言葉を覆すなどするわけもなく、風音の頭をポンと撫でて幕の外へと飛び出して行ってしまった。
「一緒に……寝てもらえない。い、急がなきゃ!死活問題!」
怪我の痛みなんてどこかへ吹き飛んだ風音は実弥の後に続いて幕の外へと飛び出し……数歩進んだ先で急停止して復活した木刀を構えた。
目の前に実弥の弟の玄弥が姿を現したからだ。
「玄弥さん……お一人のようですね。どうする?ここで戦うか森の中か平地か。私は技の特性上平地がありがたいけど」
「…… 風音の得意なところでいい。出来れば能力も技も使ってくれ」
しっかりとした声音なのに玄弥の表情は何か思い悩んでいるように見え、風音は玄弥が望んだことを受け入れて頷いた。